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【質問】
いつもお世話になっております。私は食品の微生物検査を担当している者です。現在,
リステリア検査の導入を検討しておりますが, 運動性試験の培養温度で疑問が生じたので質問させて頂きました。
「食品衛生検査指針」によると, リステリア属菌は30℃以下の温度帯で鞭毛が発育し運動性が認められるため,
運動性試験は25℃〜30℃で48時間培養を行なうとのことでした。当検査室では運動性試験にはカジトン培地を使用しております。傘状発育は5日ほど培養した方が明瞭に観察できるとの記載もありますが,
5日ではだいぶ時間がかかってしまうため, 傘状発育を少しでも早く観察できる温度は何℃なのかと様々な温度で試験しました。その結果,
30℃よりも35℃や37℃の方が傘状発育が早く, また明瞭に観察できました。30℃以上では鞭毛が発育せず,
運動性が観察できないのでは??? と思っていたため, 実際の試験結果と異なってしまい悩んでおります。30℃以上でも傘状発育は確認できるものなのでしょうか???
ちなみにインキュベーターの温度は自動温度取り機(年に一度校正を実施)により管理しております。他の文献では,
運動性試験は20℃〜25℃で検査しなければならないとの記述もあり, 実際何℃で検査するのが望ましいのでしょうか。お忙しいところ申し訳ないのですが、お答え頂ければ幸いです。
【回答】
数多くの文献によれば, リステリア (Listeria) 属は数本の周鞭毛による運動性がある菌で,
その運動性はほぼ30℃以下の培養で確認されています。「食品衛生検査指針」によると,
この傘状は, 運動性試験用培地に穿刺して25_30℃で48時間培養した後に観察すると記載しています。気になるのは,
運動性確認試験を実施している菌株はリステリア菌と確定しているものでしょうか???
ちなみに, 検査指針の手順に従って, 検査試料から増菌, 分離され, さらにTSYEA培地上で真珠様青緑色の疑わしい集落を形成したでしょうか???
菌種が違うと誤判断を生じると考えられますので, ここで確認しました。また,
一般に運動性のある菌株は, 半流動の培地に穿刺培養すると穿刺線から周囲に拡散する現象が見られますので,
リステリア属の特有な“傘状発育現象”との見分けも重要と考えます。また,「35℃や37℃の方が傘状発育が早くまた明瞭に観察できました」という現象は,
文献でも37℃で確認されるという記載があります[Bergey’s Manual of Systematic
Bacteriology. Vol. 3. The Firmicutes. 2009. Springer. p244]。一方, これからこの温度
(37℃) で常にリステリアの運動性を確認するというのは不適切であると思います。文献を調べた結果,
やはりリステリア属の運動性確認試験は30℃以下での培養が正しいと考えます。
細菌は一般に発育最適温度より低い温度で運動が活発に見られることが多いので,
低い温度での検査が薦められますが, 絶対ではありません。また, 確実に運動性の有無を確認するには,
若い培養細菌 (培養10数時間) の顕微鏡観察も有効な手法ですので, 試しては如何でしょうか。
(テクノスルガ・ラボ 立里 臨)
【質問者からのお礼】
ご回答頂きありがとうございました。菌株は標準菌株 (ATCC 7644)を使用しておりますが,
継代を何度か繰り返したものです。検査指針の手順に従って性状も確認しております。ですが,
やはり今回の検討結果 (標準菌株以外の菌株でも確認しました) のみで, 試験の温度帯を変えることはいかがなものかと考え,
当検査室でも30℃以下で試験することにしました。ただ検討結果もふまえまして,
35℃培養についても補助的手段として併用することとしました。ご回答頂き, 非常に参考になりました。お忙しい中ありがとうございました。
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