10/06/08
■ MIC 測定における1管差
【質問】
 製薬会社で微生物試験を担当している◆◆と申します。

 先日, 複数の薬剤のMIC測定を実施したところ, ある菌株に対して, 同一成分の別製剤のMICが1管ずれていました。この事象に対して,「MICの1管差が臨床での治療に与える影響はないか???」と質問されました。感覚的にMICの1管差に大きな意味はないと理解していたのですが, 論理的に説明することができませんでした。このMICの1管差と臨床での薬効の相関についてご説明頂けないでしょうか。よろしくお願いします。

【回答】
 測定対象とするものの希釈系列を予め作成し, 一定の反応の後, 各希釈段階での陽性・陰性のシグナルを判定して, 陰性から陽性, あるいは陽性から陰性に判定が変わる希釈倍率から対象物の濃度 (活性) を定量する試験を終末点法 (endpoint assay) あるいは限界希釈法 (terminal dilution assay) と呼びます (陰性から陽性, あるいは陽性から陰性に判定が変わるところが終末点)。このような試験方法は赤血球凝集反応や受身凝集反応, さらに菌濃度の定量にも使われていますが, 希釈法でのMIC測定もこの終末点法を原理とします (菌発育の有無がシグナル)。終末点法あるいは限界希釈法では, ひとつの共通した原則があります。m倍希釈法で測定した時の終末点がn番目であった場合, 真の値は[m^n-1〜m^n+1]の範囲にあるということです (真のMICには3μg/mlも5.6μg/mlもある筈です)。逆に言えば, この原則を保証できる測定の再現性が実施者には求められるということです。終末点法で得られた2つの値が同じか否かは, m^n+1/m^n-1 = m^2ですから, m^2 (希釈系列の2管) の違いがあって初めて有意に異なるとなります。希釈倍率が2倍であれば2^2 (= 4) 倍, 4.5倍希釈であれば4.5^2 (= 20.25) 倍, 10倍希釈であれば10^2 (= 100) 倍・・・となります。この有意差の有無は個々の測定値 (例えば同一菌株, 同一患者など) を比較する場合に適用され, 測定値の集団 (例えば複数人数でのMICと薬効との相関等) として統計解析する場合とは異なります。

(琉球大学・山根 誠久)


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