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【質問】
尿から分離のグラム陽性球菌で, コロニ−は粘稠性でムコイド型を呈し,
生物学的検査でS. aureus と同定しました。黄色ブドウ球菌の同定に用いられるラテックス凝集
(−), グラム染色, 莢膜染色でも莢膜は認めず, 試験管コアグラ−ゼ試験 (+)
でした。ムコイド型のS. aureusでラテックス凝集 (−) の原因は菌体が粘液層に覆われているからでしょうか???
コロニーの写真を添付いたします。
私は細菌検査を10年程度していますが, ムコイドのブドウ球菌を経験したのは今回が初めてです。大変稀な菌なのでしょうか???
教えて下さい。よろしくお願いいたします。
【回答】
ムコイド型の集落を形成する黄色ブドウ球菌は稀ではありますが, 私も数株分離した経験があります。やはりその多くは尿検体であったように記憶しています。コアグラーゼには結合コアグラーゼ
(bound coagulase : clumping factorとも呼ばれる) と遊離コアグラーゼがありますが,
ラテックス凝集試薬で凝集しなかった一つの理由として, 質問者の言うように本来は細胞壁表面に存在している結合コアグラーゼが粘液物質に包まれて露出していなかった可能性があると思います。また,
黄色ブドウ球菌の中には結合コアグラーゼは陰性で, 遊離コアグラーゼのみが陽性という菌株も存在します。このような菌株の場合にはラテックス凝集反応が陰性で,
試験管法によるコアグラーゼ試験のみが陽性となることがあります。試験管法は主に菌体外に放出される遊離コアグラーゼを検出する方法ですが,
結合コアグラーゼが陽性の菌株は, ウサギ血漿に菌体を溶かす際に菌同士が凝集し,
均等な浮遊液になりにくい性質があります。コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (CNS)
の場合には, ウサギ血漿に均等に溶け, 血漿を凝固させることもありませんが,
ラテックス凝集試薬に凝集しない黄色ブドウ球菌は一旦均等に溶けた後に, 数時間ないしは一夜培養後に血漿を凝固させることがあります。質問の菌株はこのような性質を持った菌である可能性もあると思います。
(公立玉名中央病院・永田 邦昭)
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