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【質問】
●●総合病院内科の■■と申します。
腹膜透析の患者さんが腹膜炎を起こされまして, その透析排掖培養からStreptococcus
mutansが検出されました。通常腹膜炎で検出される菌と異なりますので, この菌に対する薬剤感受性や望ましい抗生物質について教えてください。また,
この患者さんは自宅に大量の猫を飼っているようで, 猫の口腔内にもこの菌はいるのでしょうか。宜しくお願いします。
【回答】
Streptococcus mutansはヒトの口腔内に常在し, 齲食症 (虫歯)
の原因となる代表的な菌種です。ミュータンスグループのレンサ球菌の中には,
ネズミやハムスターあるいはサルから分離される菌種もあるようですが, S.
mutansは主にヒトから分離されると言われています。またヒトの口腔内が弱酸性であるのに対し,
猫や犬の口腔内 (唾液) のpHはアルカリ性であるとされ, 常在する細菌の種類も違うと言われています。したがって猫と一緒に暮らしていれば一過性に付着することはあっても,
猫には定着しにくいものと推測されます。透析排液から分離されたS. mutansは,
患者本人の菌による内因性感染である可能性が高いと考えられます。抜歯後の一過性の菌血症はよく知られていますが,
歯磨きでも菌が血中に侵入することがあり, 重症の虫歯になるとさらに歯周囲の細菌が血中へ入り込む頻度は増加し,
歯性感染を惹き起こしやすくなると考えられます。質問の症例も, 歯周囲からの血行性感染という経路も一つの侵入経路として推定されます。
治療薬に関しては, 本菌が虫歯以外の病気の原因になることが稀である為,
薬剤感受性に関する詳細なデータを探すことができませんでした。しかし, レンサ球菌属として考えると,
おそらくペニシリン系の抗菌薬が第一選択になると考えられます。ただし他の口腔内連鎖球菌の中には抗菌薬の作用点の変化によるβ-ラクタム剤耐性菌も存在しています。その他,
マクロライド系薬やクリンダマイシンなども有効であるとされますが, 耐性菌が存在することもあるため,
薬剤感受性試験を実施して確認する必要もあるかと思います。先にも述べましたように,
本菌は口腔内に普通に存在する菌であり, 検体採取時の汚染なども否定できません。起炎性の判定は,
検出菌量や炎症の度合い, またはグラム染色所見を参考にして慎重に判断する必要があると思います。グラム染色にて多核白血球と共にグラム陽性球菌が認められていたのであれば,
起炎菌である可能性は高いと思われます。さらに白血球による貪食が認められていたのであれば,
より一層その可能性は高くなります。
(公立玉名中央病院・永田 邦昭)
【質問者からのお礼】
このたびは詳細なご回答を頂きまして誠にありがとうございました。とてもよくわかりました。あの後,
検査室から連絡がありまして, 実は検出された菌はStreptococcus mitisという菌とのことでした。この菌も口腔内常在菌ですが,
やはりこれもヒト特有で猫の口腔内にはいないものでしょうか。感染の経路を考えると,
どうしても猫からが一番考えられそうなのですが, 虫歯だったのかもしれません。お忙しい中をありがとうございました。もし余裕がございましたら上記の件につきましてもご教授頂けましたら幸いです。
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