08/03/21,28
■ “Occult bacteremia”と敗血症
【質問】
 某大学病院で細菌検査を担当しています。いつも勉強させていただいています。今回は2点ほど教えていただきたいことがあります。

(1)「Occult bacteremia」の定義と考え方について教えてください。
 “Occult bacteremia”は発熱以外の症状に乏しいが, 血液培養で菌陽性となるもので, SIRSの条件を満たさない場合, 敗血症ではなく菌血症として扱われると考えてよろしいのでしょうか??? また, なぜこのような状態になるのか??? また, 積極的な治療の対象にならない場合があるのか??? コンタミとの相違点について教えてください。

(2) “敗血症”の診断について教えてください。
 敗血症疑いで以前より抗菌薬治療を行っていた場合, 血液培養が陰性でも抗菌薬療法によって患者状態が改善した場合,「敗血症」であったと判断されるものなんでしょうか??? 敗血症の診断基準である「SIRS+感染」の感染とは「血液培養陽性」という意味ではないのでしょうか???

基礎的なことで申し訳ありませんが、よろしくご教授お願いいたします。

【回答】
(1) “Occult bacteremia”という呼称は約30年程前, 小児科の医師によって提唱されました。その定義は“The occult bacteremia (OB) phenomenon has been defined clinically as bacteremia occurring in a healthy-appearing febrile child without evidence of focal bacterial infection or signs of sepsis (occult bacteremiaとは臨床的な定義で, 一見元気のいい, しかし発熱のある小児で菌血症があり, しかし局所感染巣の存在や敗血症の所見を欠くもの)”とされています。ここで注意が必要なのは, この診断は臨床診断であり, かつその他の診断を否定された結果として残る除外診断であるということです。典型的な患者像は, 3才未満の小児で, 血液培養が陽性となり, 39℃以上の発熱があるが, 局所感染巣の所見がないというものです。従って診断には, 敗血症を含むSIRSなどの感染に伴う発熱以外の全身反応があってはならない, 急性中耳炎や急性上気道炎を除く局所感染巣があってはならないという必要条件を満たす必要があります。その機序については不明ですが, 侵入部位は上気道で, 小児の粘膜バリアー防御の脆弱性から血液中に細菌が入り, 本来なら直ちに細網系で処理される筈の細菌がそのまま血液中を循環しているものと考えられています。“積極的な治療”という意味が不明確ですが, 臨床医の判断で, そのまま経過観察あるいは経口抗菌薬で外来で経過する場合もあります。コンタミとの相違ですが, まずコンタミの可能性は除外される必要条件のひとつです。この点では, 分離同定された菌種が重要です。Occult bacteremiaで分離される菌種は, 通常のコンタミ菌種とは異なり, Streptococcus pneumoniae, Haemophilus influenzae type b, Neisseria meningitidis, その他の菌種としては頻度は低いもののStaphylococcus aureusSalmonellaなどです。

(2) 「敗血症」とは, 純然と“臨床診断”だということに気付いてください。その定義は, “Sepsis, severe sepsis, and septic shock are inflammatory states resulting from the systemic responses to bacterial infection (敗血症, 重症敗血症, 敗血症性ショックとは, 細菌感染への全身反応の結果として生じた炎症状態である) とされています。勿論, 原因は血液中の細菌ですが, 血液培養「陽性」は必要条件ではなく, 十分条件だとみなされます。

(琉球大学・山根 誠久)


【質問者からのお礼】
 お忙しい中, いち早く御回答いただきましてありがとうございました。血液培養検査や髄液培養検査はその重要性はある程度認識していると思っていましたが, 根本的な部分で認識不足があり, 今回の詳しいご説明で今後の検査に自信をもてます。明日からの検査に役立てていきます。ありがとうございました。


戻る