10/02/09, 10
■ R2A培地の培地性能試験
【質問】
 いつも「質問箱」を大変参考にさせていただいております。私は●● (株)の■■と申します。医薬品製造メーカーに勤務しており, 品質管理業務を担当しております。この度は, “R2A培地性能試験”について質問させていただきたく, メール致しました。

 現在, 性能試験実施に向けて検討中なのですが,「飢餓状態」の方法に困惑しております。弊社での実施手順は以下の通りです:

(1) 凍結菌 (Pseudomonas fluorescens) を復元

(2) McFarland標準液No.1を調製し, この濁度を目安に滅菌精製水へ菌を分散(およそ10^8 cfu/mL)

 斜面培地に復元した菌を, ディスポループで釣菌し, 滅菌精製水3 mLへ分散

しています。

(3) さらに100倍希釈し, およそ10^6 cfu/mLとして, 22℃で3日間保存 (菌液としては5 mLをPPチューブにて保存)

(4) 飢餓後, R2A培地へ接種し, 生菌数を測定

 分散時および飢餓後の生菌数は, R2A寒天培地にて混釈培養法で確認しております。培養条件は32℃, 5〜7日です。ちなみに, Methylobacterium extorquensについてはまだ検討したことはありません。

 気になっている点は, “飢餓前の分散時の生菌数と飢餓後の生菌数 (性能試験) にあまり変化がない”という点です。文献や図書などでは, 飢餓後では菌数が減少するという表記やデータが記載してありますが, 弊社の試験ではほぼ変わらないか, 減少が見られたとして7割程度です。これはきちんと飢餓状態になっていないと考えるべきでしょうか???

飢餓状態というものが,「滅菌水への分散」という操作そのものでよいのか, 菌数が減少するような状況であるべきなのか, どういった状態を指すのでしょうか???

是非, ご教授いただければと思います。宜しくお願い致します。

【回答】
「飢餓状態」という言葉の定義が明確でないために, 質問者に疑問が生じたと思われます。微生物は生きるために栄養が必要ですが, 滅菌精製水にはその栄養成分が含まれていないため, 微生物を滅菌精製水に懸濁すると当然のことながら栄養不足になり, これが「飢餓状態」にあると回答者は理解しています。質問者が, “飢餓前の分散時の生菌数と飢餓後の生菌数 (性能試験) にあまり変化がない”という点に不安を感じているのかも知れませんが, 回答者の経験では, 菌液の濃度が濃い時には, 質問者と同じような経験をしています。これは, 菌体自身が相互に栄養成分や緩衝剤となり, 真の「飢餓状態」になりにくい状態です。そのため, 菌液を22℃で3日間保存する時, 10^6 cfu/mLとして保存する菌液を滅菌精製水で10倍, 100倍に希釈し, 同じ様に保存してみてください。菌数の減少を認めるはずです。第十五改正日本薬局方解説書には,「培地性能試験は煩わしい。通常, 培地製造業者はロットごとに性能試験を実施しているので, GMP関係の契約を整えて, その成績書を利用することは可能である。ただし品質に関する最終責任は委託側にある」と書かれています。

(日水製薬・小高 秀正)


【質問者からのお礼】
 お忙しい中, 大変ご丁寧な回答をいただき, 誠にありがとうございました。操作が間違っていたわけではないようなので, 安心いたしました。弊社では微生物に関して精通している者がおりませんので, 頭を悩ませるばかりでした。今後もぜひこちらの質問箱を参考にさせて頂きたいと思います。


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