07/05/01
■ Pulse-Field Gel 電気泳動 (PFGE) でのチオ尿素
【質問】
 いつも勉強させていただいています。私は細菌担当で, Pulse-Field Gel Electrophoresis (PFGE) を行うこともある検査技師です。今回はそのことで教えてください。

 ある菌のPFGEを行った際, 1株が“スメアー状”になってしまいました。初めての経験でした。チオ尿素を添加すると良い場合があると聞き, 添加して再泳動したところ, バンドを回復することが出来ました。DNAが攻撃・分解されて“スメアー状”になってしまうということはなんとなく理解できたのですが, どのような条件下でその原因となる過酸化物がより発生しやすいのか (例えばバッファーの速度や温度は関係あるのか), 具体的にチオ尿素がどのような役割をしているのかなどがよくわかりません。原理を知りたいのですが, どのように調べたらいいのかも分らず, 困っています。よろしくお願いします。

【回答】
 PFGE 解析に際して“スメアー状”を呈することがあることは知られていますが, その原因については, プロテアーゼ処理に抵抗性を示すヌクレアーゼを供試菌株が保持する場合に, そのヌクレアーゼによって DNA が分解されてスメアー状になるとする考え方がありました。しかし, 最近では質問者が指摘されている様に, 泳動中にバッファーの陽極側から過酸化物が発生し, その過酸化物が DNA を分解してしまうのではないかともいわれています。そして, 原因がどうであれ, この“スメアー状”を呈する現象については, ご指摘のように, チオ尿素の添加によって良好な成績が得られることが経験されています。

 “スメアー状”を呈する真の原因は何なのか??? が明らかにされている訳ではなく, 従って, チオ尿素がどのような機構で“スメアー状”を回避させるのかについても明確な説明は示されていないと思います。

 また, 質問の文面からは, どんな菌種について経験されたのかが示されていませんが, この“スメアー状”現象は, 質問者が指摘されているように, バッファーの速度や温度によってではなく, 特定の菌種, 菌株において起こることが知られています。

 とにかく, 現象とそれを回避する手段のいくつかが報告されていますが, 真の原因さえ充分に解明されていないのではないかと思います。現象の発現を解析して, さらには解消方法を試行錯誤されて, 新しい知見を発信していただきたくお願いいたします。

(信州大学・川上 由行)


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