07/10/26
07/10/30
■ ニューモシスチス肺炎のPneumocystis jiroveciについて
【質問】
 はじめまして。私, ■■と申します。●●大学附属病院の病理部に所属しています臨床検査技師です。もしかしたら分野が違うかもしれませんが, 「ニューモシスチス肺炎のイロベチイ (ジロヴェチ???)」について教えていただきたいのですが。

 細胞診で提出された肺胞洗浄液を, パパニコロウ染色, グロコット染色 (銀染色) にて染色して判定しておりますが, グロコット染色をした時にのみ観察される“菌体の中に黒い丸い物”が確認されます。これが特徴的だと思っているのですが, 実際の菌体には8個の嚢子があるはずで, このような構造にはならないと思います。本 (古いものでしたが) にも, 「これが何だか不明である」と書かれてありました。これは何に相当する部分なのでしょうか。

【回答】
 質問は, 免疫不全患者などの肺炎の原因となるPneumocystis jiroveciに関するものと思います。質問の中に“菌体には8個の嚢子があるはず”とありますが, 本菌の生活史の中には栄養型と嚢子とがあり, 嚢子の中に8個の核ができ, 嚢子内小体が形成されていくと考えられています。この核や嚢子内小体はグロコット染色では染まらないとされています。質問にある“菌体の中の黒い丸い物”は, 具体的にどれくらいの大きさの物が何個程度観察されるのか記載されていませんが, おそらく嚢子壁の一部ではないかと推測されます。P. jiroveciの嚢子壁には多糖が多く含まれるため, これに銀が結合して嚢子壁が染まります。特にP. jiroveciの嚢子壁には特有の肥厚部が二カ所あり, この部分が濃く染め出されるため, いわゆる「括弧状構造物」と呼ばれる染色像が認められます。嚢子には二箇所の肥厚部があるため, 中心部が凹んだ形をしており, 見る角度によってはこの肥厚部が円形や楕円形に見えることもあるかと思います。塗抹標本中では様々な向きで嚢子が混在していますので, 折れ曲がったり, 重なり合ったりすることによっても“黒い物体”の見える位置や形, 大きさなどが異なるものと考えられます。

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 Pneumocystis jiroveciに関して, 丁寧な回答をありがとうございました。円形の物質は嚢子壁ということですね。肥厚部が2箇所あることも知りませんでした。グロコット染色で, 赤血球などと鑑別が難しいことがありましたので, これがあれば自信をもって判断できそうです。ありがとうございました。


戻る