10/06/08
■ 炭酸ガス培養でのみ発育するプロテウス・ミラビリス
【質問】
 ●●病院臨床検査科細菌室担当の■■と申します。

外来患者さんの中間尿培養からCO2培養でのみ発育するプロテウス・ミラビリス菌 (Proteus mirabilis) が検出されました。当院では尿培養は血液寒天培地とBTB寒天培地の好気培養のみ行っています。培養翌日の発育は陰性でしたが, グラム染色で陰性桿菌が多数見られたため, 嫌気性菌かと思い, 翌日その培地をCO2培養してみました。また, 冷蔵庫保存していた尿を再度血液寒天培地CO2培養とGAM寒天培地の嫌気培養してみましたところ, すべての培地に遊走するコロニーが発育していました。同定キットはシーメンスのマイクロスキャンのパネル6.11Jを使用していますが, それにはまったく反応せず, 迅速判定用RNID4にてプロテウス・ミラビリス (99.9%)と同定されました。薬剤感受性はパネルでできないため, ESBLの確認のみディスク法で行いました。このようなプロテウス菌は初めて検出されたのですが, よくあるのでしょうか??? 資料がみつからず質問しました。宜しくお願いします。

【回答】

 実に興味深い事例ですね。ご質問に記されている事項どおりだとすれば, CO2要求性 (依存性) の Proteus mirabilis ということになります。が, 実際に集落所見を含めて目で確認させていただいてないので, 文面だけでコメントするのは困難に思います。過去には非常に珍しい現象が観察されたがと相談された事例で, 本当に希有な現象で「世界に向けて共同発信 (英文誌への投稿)」に至った事例もありました。また, その奇妙な事例の原因の探求が共同での論文投稿へ繋がった事例もありました。しかし, いくつかの事例では同定そのものに問題があったり, 同定不能で新菌種では??? という相談では複数菌が混在していたこともありました。今回の事例は:

(1) 直接塗抹でグラム陰性桿菌が観察されていたこと。
(2) 血液寒天培地とBTB寒天培地の好気培養で陰性だったこと。
(3) 血液寒天培地とGAM寒天培地をCO2培養/嫌気培養で発育したこと。
(4) その集落には「遊走所見」が観察されたこと。
(5) 迅速判定用RNID4でProteus mirabilis (99.9%) が得られたこと。
(6) 薬剤感受性試験は、ディスク法で実施した・・・「血液寒天でCO2培養したのでしょうか???」

培養所見を直接に見ていないのでコメントしにくいのですが、

(1) グラム染色所見で, ただ単にグラム陰性桿菌だけではなく, 形態に何か特徴的な所見は観察されなかったでしょうか???

(2) 「遊走するコロニー」は, 普段見慣れている「Proteus mirabilis」の遊走現象所見と矛盾しなかったでしょうか??? 等々。

 やはり, 直接に目で見させていただかないとコメントは困難に思います。鏡検所見/培養所見/集落所見/感受性試験の所見等を写真で送信していただくか, あるいは直接に菌株を回答者へ送付していただければ, ご相談しながら検討を進めていくことが出来ると思います。

 質問者には大変に失礼かも知れませんが, この菌については「Capnocytophaga 属」の菌種の可能性さえ考えてしまいました。「Capnocytophaga 属」は「swarming」というよりは「sliding」または「gliding」という発育が特徴的ですから, 見慣れない場合は、「Proteus」の「swarming」と誤認する可能性もあるかも知れません。また, 確認してないのでまったく確信はありませんが, もし「Capnocytophaga 属」を迅速判定用RNID4で同定したら,「Proteus mirabilis」と出て来る可能性も否定できないように思います。大変に失礼なことを記しているかも知れませんが, とにかく実際に調べてみなければ判らないことなのです。

 ご質問の文面通りに奇妙な「Proteus mirabilis」だとすれば, 臨床材料からの検出事例はこれまでに報告されていない, 実に興味深い事例ですね。とにかく, 冒頭に記しましたが, 写真をお送りいただくか, 直接に菌株を送付して下されば改めてご相談に乗らせていただきたいと思います。

(信州大学・川上 由行)


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