■ プロテウスが混在する検体からの肺炎球菌・ヘモフィルスの分離 | |
【質問】
老人施設の付属病院に勤務する検査技師です。いつも「質問箱」を見て大変参考にさせて頂いてます。先日も質問させていただきましたが, 今回喀痰培養を行って, いつも困っていることがありますので教えて頂けたらと思います。 当院では肺炎患者の喀痰培養を行うと, 肺炎球菌・ヘモフィルス等が多く見られます。それだけなら良いのですが, プロテウスが検出されることも多く, スウォーミングをおこしている場合, 血液寒天培地・チョコレート寒天培地から上記菌のコロニーを釣菌するのに困難を極めています。肺炎球菌に関しては, 血液加PEA培地を使用するとよいとは思うのですが, 高価で, さらに培地の使用期限が短く, 変色したりするので, 購入に躊躇しています。アイソディスクでCNを置いてみましたが, スウォーミングは止めることが出来ません。また, エーテル重層法を試してみましたが, 発育が見られませんでした。 ヘモフィルスに関しては, 同じグラム陰性桿菌ですのでほとんどお手上げ状態です。スウォーミングを止めて, XV因子を加えれば分離できるような培地はありますか??? また, 抗菌スペクトルを利用した方法があればと思うのですが, どうでしょうか??? 宜しくお願いします。 【回答】
特別な培地を使わない方法として, 材料が喀痰であれば, 膿性痰を滅菌生理食塩水で洗浄するという方法もあります。質問には喀痰から“プロテウスが検出されることも多く”とされていますが, 菌量はどの程度だったのでしょうか??? プロテウスの菌量が多ければ起炎菌の可能性もありますが, 肺炎球菌やヘモフィルスの菌量が多く, プロテウスが少量であれば, 痰の喀出時に付着したことが推測されますので, 検査材料の洗浄操作によって取り除かれるか, または菌量は減少する筈です。そしてプロテウスのスウォーミングの範囲が及ぶ前に, 目的とする起炎菌の集落を釣菌することです。培養時間が短いと, 肺炎球菌やヘモフィルスの集落も見つけにくくはなりますが, まずは釣菌できるうちに疑わしい集落を別の培地に継代しておくことが大切です。 もうひとつスウォーミングを最小限に抑える方法として, 培地の水分量の調節があります。スウォーミングは湿潤性が高い状態で活発になる傾向があるため, 培養前に通常よりもよく“培地表面を乾かしておく”ことも大切ではないかと思います。もちろん, それでスウォーミングが防げるわけではありませんが, スウォーミングによってプロテウスが培地全体に広がる速度が遅くなりますので, スウォーミングが及ぶ前に他の起炎菌を釣菌できる可能性は高くなると考えられます。乾燥し過ぎると他の菌も発育が悪くなることが予想されますが, スウォーミングの速さと起炎菌の発育速度との競争だと思います。また質問にあるアイソディスクCNについても, 培地表面をよく乾燥させた培地に使用することで効果が上がるものと予想されます。 以上の3点が, 今現在でも実施可能な対策だと思います。どれも完璧な分離法ではありませんが, それらを組み合わせることにより, これまで分離できなった肺炎球菌やヘモフィルスの何割かは分離できるようになるのではないかと思います。 また, 痰から“プロテウスが検出されることも多く”ということは, 老人施設内の環境に広く分布している可能性があり, 環境調査や施設内の清掃, 消毒あるいは口腔内の衛生ケアーなどによって, プロテウスが検査材料から分離される頻度が減少する可能性もあるかと思います。 (公立玉名中央病院・永田 邦昭)
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