07/06/28
■ 再発を繰り返すC. difficile関連下痢症
【質問】
 はじめまして。私は●●市の特養○○の看護師の■■と申します。下記のことでご質問をさせていただきます。

 入所中の一人 (胃ろうで寝たきり) が今年3月に発熱してセフゾンを5日間内服投与したところ, 1週間後に下痢の症状が発生したため, 嘱託医の指示で便検査したところCDトキシンが「陽性」でした。ただちにバンコマイシンの内服を5日間したところ, 症状は改善したのですが, その1ヶ月後に再発し, 再びバンコマイシンで症状は改善したのですが, 同じサイクルでほぼ1ヶ月に1回の頻度で同じような症状が出ています。検査はいつも「陽性」で, そのたびにバンコマイシンを5〜7日投与しています。当施設の感染対策としては, 下痢などの症状が出て検査が「陽性」になった場合, 接触予防策をとり, 下痢がおさまった時点で標準予防策に戻しています。ここ4ヶ月間, 再発を繰り返していて, 正直困惑しております。経管栄養の内容を変えてみたり, 腸内環境を整えたら???とビフィズス菌のファイバーを使用したりしましたが, 効果はありませんでした。このような場合,

(1) 今後もずっと再発を繰り返すものなのでしょうか???
(2) 薬物治療の他に, 経管栄養のやり方などで再発を防ぐことはできないものでしょうか??? お教えください。

【回答】
 Clostridium difficile関連下痢症/腸炎では再発することが多く, 治療を困難なものにしていることはよく知られています。特にご相談の症例のように, 再発を繰り返す症例は, 何度も繰り返す傾向があります。再発には“再燃”と“再感染”があります。“再燃”はバンコマイシンなどの治療による消化管内のC. difficileの除去が不完全で, 一旦症状が回復するものの, バンコマイシン中止後に再びC. difficileが増殖して再発するもので, 一方, “再感染”は治療により消化管内のC. difficileが除去されるのですが, また新しくC. difficile菌株を獲得して再度発症するものです。どちらにしても, C. difficileの産生する毒素に対する抗体値が上昇しにくい症例や, 重篤な基礎疾患を持つ症例において再発しやすいと考えられています。

(1)まず, この症例では, 毎回バンコマイシン内服が5〜7日行われているので, 内服期間が短かいために“再燃”が続いている可能性があります。10〜14日間 (途中で下痢症状が改善しても) 内服を続けるのが基本です。芽胞の除去のために, 一定期間バンコマイシンを使用した後, バンコマイシンのパルス療法(pulsed dosing), あるいはテーパリング (tapering) を試みるのも一つの選択です。

(2)プロバイオティクスとしては, 真菌であるSaccharomyces boulardiiが再発予防に, いくつか海外での報告があります。日本では本剤は利用できないので, しっかりしたデータはないものの, 日本で利用できる他のプロバイオティクスの使用を試みてもいいかと思います。ビフィズス菌のプロバイオティクスを試みて効果がなかったとのことですが, 一度撹乱されてしまった腸内フローラの再構築には2〜3ヶ月かかるといわれています。一朝一夕で結果は出ないことを頭に入れて, いくつか試してみるといいかもしれません。

(3)前述のように, 腸内フローラの再構築には2〜3ヶ月かかるので, バンコマイシン内服を終了し, 腸炎/下痢症が改善した後の2ヶ月間は, (肺炎や尿路感染などの治療目的の) 抗菌薬使用に注意しなければなりません。どうしても使用しなければならない場合は, 腸内フローラを主に構成している偏性嫌気性菌 (Bacteroides属など)に有効な薬剤をなるべく避けることが必要です。ニューキノロン系抗菌薬はC. difficile感染症を引き起こしにくいと (古い) 教科書には書かれていますが, 新しいニューキノロン系抗菌薬 (ガチフロキサシンやモキシフロキサシン) は, 欧米諸国で院内集団発生の引き金になっていますので, 使用には充分ご注意ください。

 最後に, 経管栄養はC. difficile消化管定着の危険因子のひとつと言われています。しかし, C. difficileが糞便検体から認められても, 下痢症状がC. difficileによって引き起こされたものかどうかを区別することは困難な場合が少なくないという印象を持っています。胃ろう造説症例におけるC. difficile感染に関しては, さらなる検討が必要かと思っています。

〔参考文献〕
McFarland, LV: Alternative treatments for Clostridium difficile disease: what really works? J Med Microbiol 54: 101〜111, 2005.

加藤秀章ほか: 再発を繰り返したClostridium difficile 関連下痢症の1 例 _分離菌株のPCR リボタイピングよる検討_。日消誌 103: 168〜173, 2006.

〔参考ホームページ〕[http://www.nih.go.jp/niid/bac2/C_difficile/](国立感染研・加藤 はる)


戻る