07/04/20
07/04/23
■ 細菌の糖分解試験について
【質問】
 はじめまして。●●大学の■■と申します。インターネット検索でこちらを知ることができました。貴会の会員ではないので恐縮ですが, 「細菌の糖分解試験」についてご教示いただけないでしょうか。どうかよろしくお願いいたします。

 私はPaenibacillus 属細菌のN-アセチルグルコサミンを資化する能力を突然変異誘発剤で失わせたいと考えております。そこで, 変異原で処理したPaenibacillus 属細菌を糖の分解試験で使う寒天培地上でスクリーニングできれば, 面倒なレプリカ・プレーティングを避けられるのではないかと考えました。このような方法で, N-アセチルグルコサミンの資化能を失った変異株のスクリーニングは可能でしょうか???

 こちらの「質 問 箱」で少し勉強させていただきまして, Bacillus 属細菌用の「糖加アンモニウム塩寒天培地」を試させていただきたいと考えております。お恥ずかしながら, 私は糖の分解試験の経験がございません。初歩的な質問で申し訳ございませんが, ご教示よろしくお願いいたします。

【回答】
 回答者も, Paenibacillus 属菌のN-アセチルグルコサミンの資化能についての経験はまったくありませんので確信はありませんが, 理論的には可能ではないかと思います。どんな変異原性物質をどのくらいの濃度で, どのくらいの時間作用させて, N-アセチルグルコサミンの資化能を失った変異株を得るのかは別として, レプリカ法を用いずとも, 変異原性物質作用後の菌液の一定量を, 例えば質問者がお考えの「N-アセチルグルコサミン加アンモニウム塩寒天培地」に接種する方法で, N-アセチルグルコサミン資化能消失変異株をスクリーニングすることは出来るのではないかと思います。実際にやってみなければ判りませんが, 試してみる価値はあるように思います。ただ, 培地に添加する N-アセチルグルコサミンの濃度 (一般的には1%ですが) と, 資化した際に発現する pH の低下がどの程度のものなのかは判りません。pH 変色域を考慮に入れて, pH の低下のレベルを検知可能な pH 指示薬を使用することが肝要でしょうが, これも実際に試してみなければ判らないことでしょう。でも, とにかくトライしてみる価値はあると思います。無責任な回答ですがご容赦下さい。

(信州大学・川上 由行)

【質問者からのお礼】
 ●●大学の■■です。ご連絡ありがとうございました。臨床微生物とは関係ない質問でしたのに, ご丁寧な回答を頂戴して恐縮しております。アドバイスにも頂いたように, トライしてみる価値はあるのではないかと考え, 予備試験をやってみたところ, うまく成功いたしました。簡単ではございますが, ご報告させていただきます。

培地1: ペプトン+アンモニウム塩寒天培地 (最少培地ベースとして)
培地2: ペプトンと肉エキス寒天培地 (栄養リッチ条件として)
糖1: N-アセチルグルコサミン
糖2: グルコース (陽性対照として)
色素: ブロモクレゾールパープル (0.0008%)

 上記の2種類の培地にブロモクレゾールパープルを加え, それぞれに糖1または糖2, そして糖を加えない3種類の寒天プレートを加えてPaenibacillus 属細菌を塗抹しました。中性域で培養を開始したので, 最初のプレートの色は紫色で, 糖を加えない両培地ともコロニーを形成いたしました。

培地1+糖1→紫 (色彩変化なし): 培地1+糖2→黄: 培地1のみ→紫 (色彩変化なし)
培地2+糖1→黄: 培地2+糖2→紫 (色彩変化なし): 培地2のみ→紫(色彩変化なし)

 以上の結果から, 本細菌は最少培地ベースではグルコースを優先的に代謝し, 逆に栄養リッチ条件ではN-アセチルグルコサミンを好んで代謝するようです。私の目的は「N-アセチルグルコサミン代謝欠損株の取得」ですので,「培地2+糖1」の培地条件で簡単にスクリーニングできそうです。色素は少し薄いと感じましたので, 次回は0.002%に増やす予定です。

 すべては貴会の「質問箱」を読ませていただいたおかげです。本当にありがとうございました。今後ともよろしくお願いいたします。取り急ぎ, お礼まで。


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