07/08/24
07/08/28
■ 細菌検査設備の整っていない検査室での塗抹検査
【質問】
 初めまして。私は、某小規模病院で臨床検査技師として勤務しております●●と申します。一つご質問させていただきます。

 当院の検査業務は生理機能検査を主として行っており, 検体検査は血算, 尿検査のほか, 迅速検査を行っているのみです。このため, 専用の細菌検査室は設置されていません。しかし, 臨床側から細菌塗抹検査だけでも院内で施行し, 結果を少しでも早く教えて欲しいという要望がありました。私たち検査技師としてもこの要望に応えたく, 今現在塗抹検査を院内実施しているのですが, 安全面で設備が整っていないため, 感染リスクがとても大きいことを行っているのではないかと不安に思っています。結核菌の可能性がある検体などは, 院内実施せず, 外注して塗抹検査の報告だけ先にいただいております。しかし, まだ何の情報もない検体もたくさんあり, それらを院内実施していることも不安に思っております。また, 微生物検査ではないのですが, 胸水などの検体の細胞分画の検査でスメアを引いた後, 急速乾燥するためにドライアーを用います。万が一その検体に結核菌が含まれていることも考えられます。当院では幸いこれによって問題は発生しておりませんが, 今後このような検体が出た場合はどのように処理したらよいでしょうか??? 院内実施は避けたほうがよいのでしょうか??? また, 法律的に問題はないのでしょうか???

 以上, 細菌検査設備の整っていない検査室での塗抹検査とあわせて, ご教授いただければ幸いです。お忙しいところ申し訳ございませんが, どうぞよろしくお願いいたします。

【回答】
 一言で回答しますと, 微生物に過剰に反応されています。すべての検体は感染性をもつ微生物で汚染されていると考えて, 血算で取り扱う血液にどのように対応しておられますか??? HIVが含まれている可能性を日々考えて対応しておられますか??? エアロゾル (空気) 感染の結核菌よりも血液に含まれるウイルス群のほうが, 私にははるかに, かつ直感的に危険だと認識できます。検体に含まれる微生物の危険性は, 微生物の種類, 陽性検体の頻度, 微生物の感染経路に大きく依存します。貴方の病院が, 大阪の結核高蔓延地区のど真ん中にあるのでしたら, 結核菌への恐怖は理解できます (陽性率が高いから)。結核菌で問題となる, 菌を含んだエアロゾルは空気と検体を撹拌する操作で発生します。検体の撹拌, 希釈, 遠心操作を行う抗酸菌染色は細菌検査設備のない施設には勧めません。しかし, 患者は急性肺炎で, その喀痰をグラム染色して検鏡することを臨床検査技師が拒否する理由は考えられません。

 貴方は臨床検査技師の資格をもっています。闇雲に微生物を恐れる素人ではないのです。知識と経験を駆使して, 考えられる危険性を評価し, 現状でその危険性を軽減できる方法を模索し, そのうえで, ある程度の潜在的な危険性を覚悟して, それでも“やる”という意志決定ができるプロだと信じます。検査環境を整えることも大切だと思いますが, それ以前に臨床検査のプロだという意識を育成して欲しいと思います・・・あのSARS騒ぎの時, シンガポールの臨床検査技師達は知識も経験もなく, さらに法律による保護もない状況で最善を尽したのです[http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/labo/oshirase/sars_kinkyu.html]。

(琉球大学・山根 誠久)


【質問者からのお礼】
 お忙しいところ, ご丁寧にお答えいただきありがとうございました。検査をする上でのプロ意識の大切さを改めて思い知りました。今後も, また疑問点などでましたら, よろしくお願いいたします。


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