■ 殺菌剤溶液にカビ様の浮遊物 | |
【質問】
突然のメール失礼致します。株式会社◆◆にて消毒剤の開発に携わっております■■と申します。単離菌の同定に関して質問させていただきたく, ご連絡差し上げました。以下に経緯を示します。 (1) 開放系 (非無菌条件下) にて試験を行っている際に, 殺菌剤を含有する溶液中にカビ様の浮遊物が認められた。
(2) 単離, 培養を実施。
(3) 実体顕微鏡での観察を実施。
(4) 直接標本の観察を実施。
(5) スライド培養標本の観察を実施。
図-1 25℃, 5日間培養後のコロニー形態 “カビ”であるとの前提で, 培養日数・形態等について該当するものを調べましたが, 一致するものが認められませんでした (微生物同定の経験が無いため, 観察自体に問題がある可能性も考えられます)。また, カビ以外の可能性として, 酵母, 放線菌等についても調査しておりますが, 捗っていない現状です。 そこで, このような特徴を持つ微生物にはどのようなものが考えられるのか, またその同定方法についてご教示賜りたいと存じます。 大変ご多忙中とは存じますが、何卒よろしくお願いいたします。 【回答】
白色のフェルト状のコロニーを形成するカビは数多く存在するため, この単離菌を同定するためには, 同定の基準となる「胞子形成様式」を確認する必要があります。添付写真 図-1の白色コロニー中心部から放射状に形成される溝に沿ってうっすらと緑色になっているように見受けられます。その色付いている箇所に胞子 (分生子) が形成されている可能性があります。もし, その箇所が緑色っぽく, その箇所をプレパラートに作成して観察した際に, ホウキ状の構造が観察された場合はアオカビ属Penicilliumの1種である可能性が考えられます。 培養方法の改善法として考えられる点を下記にまとめます。 (1)培地の種類
(2)培養条件の変更
[注意!] カビは人工培地上では胞子形成が貧弱である, またはまったく胞子を形成しない菌もあります。 また, 観察方法についてですが, すぐにプレパラートを作成せずに, 培養しているシャーレを光学顕微鏡のステージに載せて直接検鏡するのも有効です (その他, 実体顕微鏡下でのコロニー観察, スライド培養観察といった観察手順には問題はないと考えます)。 胞子をまったく形成しない場合や急ぐ場合は, 最初から遺伝子解析手法などにより同定する手段が有効な場合もあります。 (テクノスルガ・ラボ 喜友名 朝彦)
【質問者からのお礼】 ご回答いただき, ありがとうございます。また, 限られた情報からの考察のみならず, 培養方法等についても詳細にご教示いただき, 誠にありがとうございます。ご教示いただいた中にもある遺伝子解析による同定を試みたところ, バッカクキン科の一種であると推定されました。今回の件を通して, 形態観察の難しさ, 適切な同定方法選択の重要性を学ぶことが出来ました。この経験をもとに, 今後とも精進して行きたいと思います。本当にありがとうございました。
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