08/02/24
■ サルモネラの実習で
【質問】
 初めまして。●●大学の■■といいます。

(1) 実習でサルモネラの分離・同定を行ったのですが, TSI培地において高層部は黒変, 斜面部は赤変する筈なのに, “斜面部まで黒変”していました。なぜこのような結果になってしまったのか分かりません。硫化水素産生が多くて, 斜面部まで黒変したのでしょうか???

(2) また, ブリリアントグリーン寒天培地で, コロニーが白〜ピンク色, 培地は赤色を呈する理由も分かりません。

(3) 加えて, SIM培地において, 硫化水素産生性と運動性が共に(−)という結果になりました。単に菌の接種がうまくいかなかったためではないかと考えているのですが, 他に何か理由はありますでしょうか??? 

未熟な質問ばかりで申し訳ありませんが, 回答よろしくお願いいたします。

【回答】
(1) TSI培地での斜面部の黒変
 サルモネラ属をTSI寒天培地に接種した場合には通常, 高層部が黒変します。斜面部まで黒変した理由で最も考えられることは“多量の菌体を接種した”か, 菌株が特別に硫化水素の多量産生株ではないのであれば, “培養時間が長過ぎて”, 時々斜面部まで黒変する場合があります。

(2) ブリリアントグリーン寒天培地での集落色 (白_ピンク色) 培地の赤変
 ブリリアントグリーン培地が他のpH指示薬含有培地と異なるのは, ブリリアントグリーンが発育集落の色調変化を目的に添加されているのではなく, グラム陽性球菌属と大腸菌の発育を抑制する目的で添加されている点です。ですから, 発育集落の色調変化は同時に添加されているフェノールレッドの作用で集落の色調変化を鑑別することになります。質問の集落色 (白_ピンク色) で培地が赤変する理由ですが, ブリリアントグリーン培地には乳糖と白糖が添加されています。白_ピンク集落は, この乳糖と白糖を分解しない菌種で, 集落とその周囲がアルカリ側に傾きフェノールレッドの作用で赤い色調となります。また反対に, 乳糖と白糖を分解する菌種は酸性側にpHが傾くので集落と培地が黄色色調になります。

(3) SIM培地で硫化水素と運動性が陰性
 SIM培地での硫化水素産生試験はTSI培地と同等ですが, 試験原理が異なります。TSI培地ではブドウ糖を分解してチオ硫酸を利用する原理です。一方SIM培地ではブドウ糖を含んでいないので多量に含まれるペプトン中の含硫アミノ酸を利用します。産生された硫化水素がクエン酸鉄アンモニウムと結合して黒変する機構です。このように, 同じ硫化水素産生の試験でも原理が異なれば結果も異なる場合があります。一般的に, 大腸菌は硫化水素「陰性」と記述されていますが, 鉛試験法を用いれば硫化水素産生となります。

 また, 運動性「陰性」についてですが, すべてのサルモネラ属が運動性をもつものではありません。稀ではありますが, 運動性陰性株があります。SIM培地での運動性試験は“gold standard”ではありません。運動性の確認は生理食塩水で菌液を作成し, 顕微鏡で確認することです。微弱な運動性の菌はSIM培地の寒天濃度 (0.5%) では「陰性」と判定されます。

 最後に質問の内容で気になることがあるので付け加えます。数種類の確認培地に菌を接種し, 判定結果が相反する性状となっています。確認培地への接種はどのように実施していますか??? 分離培地から肉眼的に同一菌種と判断して数種類の集落を別々の確認培地に接種していないですか??? この場合には異なる菌種を別々の培地に接種している可能性があります。確認培地への接種は純培養菌を用いるのが原則です。

 培地の原理を理解して, それぞれの培地を観察できれば細菌学は楽しい実習になると思います。頑張って下さい。

(琉球大学・仲宗根 勇)


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