■ サルモネラO血清凝集とTSI, LIM培地の所見 | |
【質問】
はじめまして。弊社は畜産の生産・製造関係で, 私共はその分析検査にたずさわっております。今回お聞きしたいのは, 現在, 豚プンから豚のサルモネラ陽性率を見ているのですが・・・・ 検査方法は, 採糞管に糞を採取し, 直接ハーナテトラチオン酸塩培地を入れて37℃, 18〜24時間増菌培養後, DHL培地に塗沫して37℃, 18〜24時間培養。単離した黒色コロニーが出たら, TSIとLIM培地にて培養後, 色の変化, ガス産生等で確認し, O血清で凝集したら『陽性』と判断しております。ですので,『陽性』最終判断まで最短でも3日後となります。できるだけ早い結果が分からないかと, 試しに単離された黒色コロニーを直接O血清で凝集確認してみました。きれいに凝集しました。しかし問題はその後です。その時凝集したにもかかわらず, TSIとLIM培地 (どちらか片方だったと思います) で陰性となりました。再度LIM培地のコロニーで凝集確認しましたが, 凝集しました。こういう事は ありえるのですか??? また, こういう場合はどう判断すればよいのでしょうか。 上記内容が分かりづらければ, 下記内容にお答えいただければ幸いです。 (1) O血清で凝集すれば, TSI, LIM培地での所見が陰性だろうが, 陽性と判断できるのか。 (2) TSI, LIM培地で明らかな陽性所見であっても, O血清の凝集が見られなければ『陰性』と判断できるのか。 ご回答の程, よろしくお願い致します。 【回答】
(1) O血清で凝集すれば, TSI, LIM培地での所見が陰性でもサルモネラと判断できるか? 結論からすると, この菌株の記載性状のみではサルモネラとは判断できません。サルモネラのO抗原に類以した抗原構造を持つ腸内細菌の菌種や菌株があります。これらの菌株では偽凝集がおこります。もちろん非典型的な生化学性状を示す株もありますので, サルモネラを疑う場合には他の特徴的な生化学性状試験を実施, 確認した後に血清反応を試みます。 (2) TSI、LIM培地で明らかな陽性所見でも, O血清の凝集を認めなければ陰性と判断できるか? サルモネラを完全には否定できません。まず使用しているO血清の網羅している範囲に限界があります。市販のO血清(デンカ生研)には網羅する範囲でいくつか種類があります。市販血清は, 通常ヒトから比較的検出頻度の高い血清型で構成されています。質問の検査対象はブタですので, 市販抗血清に網羅されていない血清型の場合があります。またO抗原を発現していない可能性もあります。O抗原は耐熱性ですので, 熱処理後に試験することを勧めます。 質問者は細菌の菌種同定に誤解があります。 選択性のある培地からは血清反応は行わない (例外は一時予備試験としてのTCBS培地からのコレラO1凝集のみ): 選択培地 (増菌培地) は望まない菌を殺すのではなく, 単に培地上での発育を阻止, または遅らせるだけです。目的とする菌集落にそれらの阻止された菌が混在すれば質問 (1), (2)のことが頻回に起こります。試験した菌株を選択性のない培地で純培養して個々の試験を実施する必要があります (非選択培地でO抗原にできるだけ変異をおこさせない)。使用している性状培地で多くのSalmonella属がスクリーニング可能ですが, S. paratyphi Aは硫化水素非産生, リジン陰性で, S. typhi は硫化水素を少量しか産生しない特徴があります。数種の特徴性状を考慮しながら同定判定す必要がありますると。 最後に, 質問者は結果を早く得るために同定方法を試行していることと思います。このことは非常に重要なことです。今後も基本を守って検討を重ねて下さい。現在よりもより速い方法が見つかるはずです。 (琉球大学・仲宗根 勇)
|