08/11/17, 25
■ 新型インフルエンザウイルスの検査
【質問】
 新型インフルエンザの検査についてお尋ねいたします。公立の地域の基幹病院に勤務しております。

 この度, 自治体の新型インフルエンザマニュアルに先駆けて当院でのマニュアルを作成することになりました。新型インフルエンザと通常のインフルエンザを鑑別できるようなキットができるのか, 医療機関に必要数供給されるのかなど, 疑問はいろいろあるのですが, 実際のところがわかりません。医療機関で実施できる検査, パンデミックになった場合に行う検査セットの内容など, できましたら具体的なところをご教示下さい。また, 参考になる資料, サイトなど, 併せてご教示いただければと思います。よろしくお願いいたします。

【回答】
 実際には大変難しい問題です。現在、東南アジアで観察される新型鳥インフルエンザは、家禽からの濃厚なウイルスの吸引によって起こり、ヒトからヒトへ直接伝播する能力は低いとされています。しかも、この鳥型インフルエンザが吸着・感染できるウイルス・レセプターの体内分布が限局され、肺内の奥深く、肺胞に感染が限局されます(これがヒトからヒトへ伝播する能力が低い理由のひとつになります)。従って、咽頭ぬぐい液を用いた通常の免疫クロマトグラフィー法では「陰性」となり、診断が確定できないという現状です (肺胞洗浄液BALでは診断できるかもしれません)。唯一、最近になって、遺伝子増幅法のひとつLAMP法で鳥型インフルエンザH5の存在を決められるようになりましたが、インフルエンザ様症状を訴える患者全員にLAMP法で検査するといった状況にはありません。

 世界的な大流行が起こるのは、この鳥型インフルエンザがヒトからヒトへ伝播できる能力、言い換えれば、上気道にも感染できるようになった時です。この時には、咽頭ぬぐい液を用いた免疫クロマトグラフィー法でも診断できると思われます。しかし、現在の免疫クロマトグラフィー法ではA型あるいはB型インフルエンザを検出することができるだけで、香港型 (H3)なのか、ロシア型 (H1) なのか、あるいは新型の鳥型 (H5) なのかを鑑別することはできません。A型で陽性となり、赤血球凝集抑制 (HI) 試験で香港型(H3) にも、ロシア型 (H1) にも有意のHI抗体上昇がない時、すわ新型か!!???と疑うことになりますが、この診断手順ではペア血清がそろうのに2〜3週間も必要となります。という訳で、国内第一例目を国内の医療機関がみつけるのはなかなか容易なことではないと思います。このあたりの危ない状況を下記のweb サイトに掲載しています。また、国立感染症研究所のホームページ[http://idsc.nih.go.jp/disease/avian_influenza/index.html]から必要な情報が得られると思います。

インフルエンザウイルスを巡る危機・・・[http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/labo/kyouju/h200805.html

(琉球大学・山根 誠久)


【質問者からのお礼】
 新型インフルエンザが発生していない状況で, 具体的な対策を講じることの困難さがあらためてわかりました。まず, 所管の保健所に対応を確認することと情報収集に努めることにいたしました。お忙しいなか, ご回答いただきありがとうございました。


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