07/07/19
■ 使用されていないメチシリンに耐性のMRSA
【質問】
 はじめまして。MRSAについて質問があります。

 MRSAとはメチシリンに対して耐性を持った黄色ブドウ球菌ということですが, メチシリンは現在日本ではほとんど使用されていないと聞きます。ですがMRSAは非常に問題視され, 色々な社会的弊害が存在したりしています。いったい何がそれほどまでにメチシリンに耐性を持つことが問題なのでしょうか???

【回答】
 大変優れた着眼点からの質問だと思います。このような“感性”をいつまでも養ってください。

 MRSA が米国で発見されてから約30年が経過します。米国疾病管理センター (Centers for Disease Control: CDC, 当時は, 現在の正式名称の後半, “and Prevention”はありませんでした) から刊行されているMorbidity and Mortality Weekly Report (MMWR) に報告されたのですが, 我が国の関係者はまったく関心をもちませんでした。質問にあるように, 日本ではあまり使用されていない“メチシリンに耐性の黄色ブドウ球菌”には興味がなかったからです。米国では, メチシリンは安くて使い易い抗ブドウ球菌剤として, 特に手術後に広く用いられていました。当時のブドウ球菌はそのほとんどの分離株がペニシリナーゼというペニシリン分解酵素を産生していましたので, このペニシリナーゼに分解されないブドウ球菌専用のペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン(penicillinase-resistant penicillin) が開発されてきたのです。このペニシリナーゼ抵抗性ペニシリンのひとつがメチシリンです。次第にMRSAはメチシリンのみでなく, その他のペニシリナーゼ抵抗性ペニシリン, すべてに耐性だということが明らかになり, 米国でのパニックが始まったのです (かつて, MRSAはpenicillinase-resistant penicillin resistant Staphylococcus aureusという大変長い名称で呼称されていました)。では日本ではペニシリナーゼを産生する黄色ブドウ球菌にどのように対処していたかというと, 専ら高価なセファロスポリン剤で治療していたのです。メチシリン耐性はセファロスポリン剤には無関係という大きな誤解が日本でのMRSAへの適切な対応を遅らせたのです。実はMRSAはセファロスポリン剤にも耐性だということが明らかになり, 日本でのパニックが始まったのです。現在では, MRSAはメチシリンに限らず, 非常に幅広い抗菌剤にあまねく耐性の多剤耐性菌の代表であると認識されています。

 同じような話が話題のVRE (バンコマイシン耐性腸球菌: vancomycin resistant enterococci) にもあります。腸球菌には凡そペニシリンが第一選択薬剤です。何故なら, 腸球菌はペニシリナーゼを産生しないからです。バンコマイシンを腸球菌に使うのは, 患者がペニシリンにアレルギーなど, 極めて限定されています。では何故, そんなに多くは腸球菌目的に使われないバンコマイシンに耐性の腸球菌が問題になるのでしょうか??? 実は, 腸球菌がもつバンコマイシン耐性遺伝子がMRSAに伝達される (移る) 可能性が危惧されているからです。MRSAがバンコマイシンに耐性となると, これはどうしようもない, とても危険な耐性菌になるからです。

(琉球大学・山根 誠久) 


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