08/06/18, 24
■ 食品保管におけるガス産生
【質問】
 国内流通する食品の監視を行っています。保管中の食品で, 本来ガスが発生しないと思われていた食品でガスが発生した場合, 食品衛生上の危害の有無について検討する必要が出てきます。塩分濃度約25%で, 唐辛子と水でペーストにした食品でのガス発生について御教授の程, よろしくお願い致します。

(1) キムチのような乳酸醗酵食品の塩分濃度はこれほど高くないと思いますが, (このような条件で) 乳酸醗酵を含む醗酵は起こりえるのでしょうか???

(2) ボツリヌス菌を考慮した場合, 性状を見るとガス産生性について記載されているものを見つけられませんでしたが, ボツリヌス菌はガスを産生しますか???

(3) 他の危害として考慮しなくてはいけないものはありますか???

以上, よろしくお願いいたします。

【回答】
(1)「食品の腐敗変敗防止対策ハンドブック、漬物、宮尾茂雄著」(サイエンスフォーラム)を参考にして回答します。袋詰め製品の膨張の原因のほとんどは酵母で, 酵母以外では乳酸菌によることが多く, ガス生成を伴うヘテロ乳酸醗酵を行うLactobacillus brevisLeuconostoc属に属する球状乳酸菌が原因菌である。また, 耐熱性芽胞菌による場合も稀に見られることがある。

(2)「Bergey’s Manual of Systematic Bacteriology, Volume 2」には, ボツリヌス菌のA, B, F型のものは, ブドウ糖が入っている培地で水素ガスを発生させると記載されています。

(3) ブドウ糖が入っている培地でガス産生が激しい(stormy fermentation)のがClostridium perfringensという菌です。国内では, “ウエルシュ菌”と呼ばれていて, 食中毒菌の一つです。ボツリヌス菌と同様に, 嫌気性で芽胞を形成します。

(日水製薬・小高 秀正)
【追加確認】
 ありがとうございました。2点確認させていただきたいのですが:

(1) Lactobacillus brevisLeuconostoc属に属する球状乳酸菌は, 塩分濃度25%程度の環境下でも発育し, 乳酸醗酵を行うとともにガスを産生する。

(2) ボツリヌス菌のA, B, F型やウエルシュ菌はブドウ糖の存在する環境下では発育時にガスを産生するが, ブドウ糖が無い環境ではガスを産生しない。

以上、2点について御教授の程、よろしくお願い致します。

【回答】
(1) 塩分濃度25%のペースト中に, これらの純培養菌を接種しても発育はしないと思います。しかし, これを野菜などに使って発酵食品にする場合には, 塩分濃度は下がりますし, 野菜からの液体で栄養成分が補われることから, 野菜に漬け込んだ時点で, 野菜に生存している細菌が生き残り, 徐々に生育する可能性はあると思います。

(2) ブドウ糖がない環境ではガスを産生しません。しかし, ご存じの通り, 多くの大腸菌群と呼ばれている細菌や動物細胞には, β-ガラクトシダーゼという酵素があります。この酵素は, 乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解します。この様なことを考えると, ブドウ糖そのものがなくても, 他の糖類が分解される過程でブドウ糖を生じる可能性があります。また, 多くの食品の場合, 調味液をふくむ原材料にブドウ糖が含まれているか否かを知るのは非常に難しいと思います。

(日水製薬・小高 秀正)


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