■ 小児科領域のClostridium difficile関連下痢症 | |
【質問】
お忙しいところ恐れ入ります。私は小児科医なのですが, 私にとっては大変珍しいCD関連下痢症を経験しました。10歳の男児で, 1ヶ月前に指の化膿症に対し1週間抗菌剤投与があるようです。腹痛が先行して高熱があり, 再び同じセフェム系の抗菌剤を3日間処方され, 2日間内服(その後, 途中中止)。高熱が続き, 肝機能障害もあり, 伝染性単核球症の疑いで入院 (後の抗体価検査で診断確定)。入院翌日に粘血便が出現。CDtoxinA test (OXOID) で「陽性」(内視鏡検査などは未施行)。整腸剤とVCM 1g内服3日間だけですぐに軽快しました。いまのところ再燃はありません。大変興味を持ち, いろいろ調べてもわからないことがあります。 (1) 伝染性単核球症が宿主側のCD関連下痢症の発症因子となった例があるのか??? また, なり得るのだろうか??? 本例は伝染性単核球症罹患がCDAD発症の主要な誘因と考えて差し支えないか??? 誘因となる他に有名なウイルス感染はあるのか??? (2) 母親が医療機関従事者ですが, 医療機関従事者とその家族のCD保菌率が高いというデータがあるのか否か??? これまで入院歴はなく, 受診歴は一度だけなので, CDが母親から来たと考えていいだろうか??? それとも自然界にコモンにあるようなので, 医療関係者の家族というのは保菌にまったく影響がないのか??? (3) 小児科領域におけるCDAD発症の危険因子, またできれば日本における小児の年齢別CD保菌率のデータがあれば教えてください (特に参考文献などご存じであればご教授下さい)。 周りに相談する人もなく, 田舎なため, インターネットしかまともなツールがありません。CDの第一人者に直接尋ねる機会はまたとないと思い, 質問させていただきました。宜しくお願いいたします。 【回答】
呈示された症例では, 抗菌薬の使用が主要な誘因となっていることは間違いないと思います。 (2) 入院症例ではC. difficileの無症候キャリアは少なくありませんが, C. difficileを消化管内保有している健常な成人は少ないことがわかっています。私達の論文 (Kato, H, et al.: Colonisation and transmission of Clostridium difficile in healthy individuals examined by PCR ribotyping and pulsed-field gel electrophoresis. J. Med. Microbiol. 50: 720〜727, 2001) は日本人における検討ですが, 医療従事者 (看護師) のグループで特に高い消化管保有率を認めるということはありませんでした。この同じ検討では, 家族内よりも, 同じ職場や学校内でC. difficileが伝播したと考えられる事例が認められ, 病院や老人ホーム等の環境でなくてもC. difficileは伝播する (健常人であれば定着や発症はしにくく排除される) のではないかと考えられました。もちろん, 調べた一家族で母親 (専業主婦, 配偶者は医療関係者であるがC. difficile陰性) と1歳の息子から同じタイプの菌株が得られた結果が出ているので, 家族の間での伝播はありうると思われますが, 医療関係者であることは関係ないように思われました。 (3) 2歳以下, 特に新生児ではC. difficile消化管保有率が高いことがわかっています。危険因子は成人と同様に, 抗菌薬使用や免疫応答, 基礎疾患の重症度等があげられますが, 加えて小児科領域では母乳栄養を与えられた小児では調整乳の場合よりもC. difficile消化管定着率が低いという報告があります。小児におけるCDADはあまり検討されていなくて, 日本はもちろん海外でもまとまったデータが少ないのが現状です。以下の総説, (McFarland, LV, et al.: Pediatric Clostridium difficile: a phantom menace or clinical reality? J. Pediatr. Gastroenterol. Nutr. 31: 220〜231, 2000) がわかりやすいreviewだと思いますので紹介します。 (国立感染研・加藤 はる)
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