09/06/16
■ SIM培地のIPAテスト
【質問】
 微生物の実習で疑問に思ったことがあったのでメールさせていただきました。 

 SIM培地でのIPAテストについてなのですが, 腸内細菌の4群はSIM培地でトリプトファンからインドールピルビン酸を産生し, 培地中のクエン酸鉄アンモニウムの鉄イオンと結合して培地が褐色になりますが, 褐色になるのはSIM培地の上の部分だけで下の部分はSIM培地の色のままです。なぜ上の部分だけが褐色となって, 下はそのままの色なのですか???

 調べてみても, そのことについて書いてあるところがありませんでした。お忙しいところ申し訳ありませんが, よろしくお願いいたします。

【回答】
 簡潔に回答します。IPA反応は, L-tryptophan 酸化的脱アミノ酵素により, インドールピルビン酸(IPA)とアンモニア(NH3)を生ずる反応です。そして, 褐色になるのは, ご存知のように, 産生された IPA が培地中のクエン酸鉄アンモニウムの鉄イオンと結合して褐色の色調を帯びるからです。

 脱アミノ反応には, この酸化的脱アミノ反応以外にも, 還元的脱アミノ反応, 不飽和的脱アミノ反応, 水解的脱アミノ反応, 等々があります。IPA が産生されるのは, 上述した「酸化的アミノ反応」によります。つまり, 基質となるアミノ酸に対応する「αケト酸」とアンモニア(NH3)を生ずる反応です。L-tryptophan に対応する「αケト酸」は「IPA」です。この酸化的脱アミノ反応は,「酸素」のある環境で起こります。つまり, 酸素の供給が乏しい環境では起こりません。ですから, 培地表層部で観察されるのです。

 腸内細菌科の菌は通性嫌気性菌ですから, 嫌気環境でも発育可能です。SIM 培地に IPA 陽性菌を接種して, 嫌気培養してみて下さい。IPA 反応は「陰性」で陽性にはなりません。嫌気環境には酸素がないからです。要するに, 培地の表層部以外の深部では, 大気中の酸素の供給がほとんどないからなのです。

(信州大学・川上 由行)


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