■ シモンズのクエン酸培地の調製は, 斜面培地 or 高層斜面 (半斜面)??? | |
【質問】
当方, 保健所検査室で細菌検査を行っている者です。 大腸菌鑑別にTSI, LIM, VP, シモンズのクエン酸培地, 酢酸ナトリウム培地を使用していますが, お伺いしたいのはシモンズのクエン酸培地, 酢酸ナトリウム培地の作成方法についてです。シモンズについては, TSIのように高層部分と斜面を作成していたのですが, 先日上司に“全斜面で作成しないと駄目だ”と言われました。高層部があると, 斜面部分が少なくなり, 生えない菌もあるとのことで, 酢酸ナトリウム培地も同じだと言われました。しかしながら, あるカタログには“高層部分に穿刺し・・・”と明記してあります。ケース・バイ・ケースで, 培地の作成方法を選択する必要があるのでしょうか??? また, 酢酸ナトリウム培地についても同じなのでしょうか??? 検査業務に携わりながら, 今更こんなことを質問するのは誠に恥ずかしいのですがご教示下さい。よろしくお願いいたします。 【回答】
これとは別に, 1967年Sellersによって考案された“クエン酸塩マンニット培地”がありますが, これは高層斜面培地であり, クエン酸利用能に影響されずに高層部でのマンニット発酵性の判定を行う培地です。マンニットの発酵性とクエン酸塩の利用性を確認するための培地ではなく, Shigellaと他の腸内細菌の鑑別, そして特徴的な大腸菌の発育所見を観察するために考案されたものです。Shigella spp. (Shigella dysenteriaeを除く) はマンニットを炭素源として発育できるものの, 同時にビタミン類を必要とすることから, この培地では発育できず, 培地は無変化です。これに対し, 多くのEnterobacteriaceaeの株は24時間以内に全斜面が青変します。また, マンニットを発酵し, クエン酸を利用する菌株は高層黄色, 斜面上半分が青変し, クエン酸を利用しない菌株は斜面部が無変化のままです。これは, クエン酸利用能が嫌気条件では起きず, 斜面のみの反応であることから, 高層のマンニット発酵性には影響されないからです。しかし, 大腸菌は24時間以内に高層に発育し, 高層と斜面の境界部が青変し, 徐々に斜面がアルカリ化してきます。そして培養3日目以後に全斜面が青変するような特異的な反応を示します。このようなメカニズムの培地は現在ほとんど利用されていないと思います。実験や研究は別として, 実用的ではなく, 日常の分離株同定は, 安価で正確なキットや機器による数値分析が用いられています。しかし, これらについても完全ではなく, 同定不能株も出現しています。その理由として, 微生物分類学が遺伝子手法になり, 現実の生物学的同定法と異なっていること, 数多くの種が報告されたことがあげられます。培地を用いた確認試験には限界がありますので, これらを踏まえて, 大まかな鑑別として利用してはいかがでしょうか。できれば上司の方と一緒にディスカッションし, 文献の考察や実際の試験にチャレンジしてください。そのための参考意見としてお答えしました。 (大手前病院・山中 喜代治) |