07/07/24
07/07/30
■ 炭素源の資化性試験
【質問】
 いつも勉強させていただいております。私は大学で研究補助をしておりますが, 菌株の同定試験である「炭素源の資化性」についてお伺いしたくメールしました。

 いままで資化性を酸生成の有無で判断していましたが, ある本をみて疑問に思うところがありました。本には,「グルコース, ガラクトース, マルトースなどの糖質については, 資化性と発酵性の有無を併記すること」と書いてありました。発酵性とはどのように試験し, 判断するのでしょうか??? また限られた種類の糖質で発酵性も検査するのはなぜですか???

宜しくお願いします。

【回答】
 早速, 簡潔にお答えします。「いままで資化性を酸生成の有無で判断していましたが, 疑問に思うことが・・」と記されていますが, 資化能を酸の産生で判断してまったく問題ありません。「資化試験」は, 基質の物質, ここでは「糖」を利用することが出来るか否かを試験することですから, 酸産生の有無で検査されます。

 その次の,「グルコース, ガラクトース, マルトースなどの糖質については, 資化性と発酵性の有無を併記すること」ですが, バクテリアは種によって「資化」の形態に特徴が見られるのです。質問者がどのようなお仕事をされていて, どのような菌種を扱っているのか, 質問からは伺い知れませんが, 「資化」には「好気的環境下」での分解様式と「嫌気的環境下」での分解様式があります。腸内細菌科の菌種は通性嫌気性菌で, 例えば大腸菌は「グルコース, ガラクトース, マルトース」などの糖を好気/嫌気のいずれの条件下でも「資化」できます。一方, 例えば偏性好気性菌である緑膿菌では「グルコース, ガラクトース, マルトース」のいずれの糖も嫌気的条件下では分解 (資化) できません。つまりは発酵できないのです。ですから「非発酵性菌」と呼称されるのです。一方, 緑膿菌は好気的条件下では「グルコースとガラクトースを分解 (資化) できるのです。なお, マルトースは好気的でも嫌気的環境下でも分解 (資化) できません。

 大まかにおわかりいただけたでしょうか。それでは, 「発酵性」とはどのように試験するのでしょう。腸内細菌科の菌種を例に概要を記してみます。OF培地を用いるOF試験がそれです。試験したい糖が1%含有されている2本のOF培地にそれぞれ供試菌株を穿刺培養し, 1本にだけ「滅菌 (流動) パラフィン」を重層して大気との接触を隔絶します。つまり, この1本を嫌気的状件下で培養することになります。パラフィンを重層しない好気的環境下での培養所見と比較してpHの低下が観察できるかを試験します。要するに, 菌種によって「資化」はできても「発酵」はできないといった性状が菌種同定には重要なのです。               

(信州大学・川上 由行)


【質問者からのお礼】
 炭素源の資化性試験について教えていただき, ありがとうございました。とても勉強になりました。偏性嫌気性細菌を主に扱っており, 発酵性ばかりを資化と捉えていましたが, 今回「基質利用性とは何か」教えていただき, きちんと理解をすることができました。これからもこちらのホームページで勉強させていただきます。ありがとうございました。


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