08/08/22, 25, 10/07
■ TCBS寒天培地上の集落の色調の変化
【質問】
 ●●市中央卸売市場食品衛生検査所で細菌検査を担当している■■と申します。腸炎ビブリオ検査を担当していて, 以前から疑問に思っていることを質問します。

 TCBS寒天培地上の集落の色調が保存温度によって変化するのではないかということです。当所では, 検査が週末をまたぐ際には, インキュベータにプログラムをかけ, 一定時間培養した後には冷蔵庫になるようにしておりますが, TCBS寒天培地の場合, “低温であると緑色”の集落が多く見受けられるのに対し, これを“37℃に戻してやると黄色”くなってしまうことを度々経験しています。培地が低温のまま検査を継続すると誤判定の原因にもなります。このようなことが実際に可逆的に起こり得るのでしょうか。それとも偶然でしょうか。

【回答】
 “低温であると緑色”の集落が多く見受けられるのに対し, これを“37℃に戻してやると黄色”くなってしまうのは, その発育している微生物の至適温度が37℃近辺にあり, “白糖分解菌”であることが考えられます。TCBS寒天培地に発育した微少なコロニーは至適温度にないため, 微生物の酵素が活発に作用しないため, 白糖を分解していなかったものが, 至適温度になったことによって白糖を分解して黄色いコロニーを形成したものと考えられます。腸炎ビブリオは4℃では発育せず, 30℃〜40℃で発育します。プログラム付きの孵卵器であれば, 37℃で20時間後, 5℃へ下がるようにプログラム設定してください。

(日水製薬・小高 秀正)


【追加質問】
 ご回答ありがとうございます。●●市中央市場食品衛生検査所の■■です。

 プログラムの設定は, 37℃で18時間以上実施しているので, 当該集落は微細なものでもありません。恐らくアルギノリティカス (V. alginolyticus) ??? 培養後, 後日釣菌しようと考え, 冷蔵庫に保管した際に, 培地上の色の変化があったこともあります。次のような仮説は棄却されてしまうのでしょうか。

「通常, 白糖分解菌が黄色集落を形成する。冷蔵することにより, 白糖分解が止まる。同時に活発であったプロテアーゼ活性も止まる。しかし, この代謝産物が酸中和に働き, 集落の色が緑に変わる。温度を戻すと, 再び勢いよく白糖を分解し始めるので, 黄色に戻る」

 この説明以外に納得できる解説が見当たらないのですが, 何か知見がありましたらお願いします。

【回答】
 質問者の考え方も一つの仮説として否定できません。糖分解試験は糖代謝反応が最初に現れます。もし, 蛋白分解酵素を持っている微生物であれば, 後に蛋白分解酵素により培地中のペプトンが分解されてアミノ酸が生成され, さらにアンモニアまで分解されるため, 糖分解により産生した酸がアンモニアにより中和, さらにアルカリ化を呈することがよくあります。TCBS寒天培地ではありませんが, MLCB培地について検討した文献を参考にしてください。

〔参考文献〕
Kodaka H, Mizuochi S, Honda T, Yamaguchi K.: Improvement of mannitol lysine crystal violet brilliant green agar for the selective isolation of H2S-positive Salmonella. J Food Prot 63(12): 1643〜1647, 2000. 

(日水製薬・小高 秀正)

【質問者からのお礼】
 返事が遅くなり申し訳ありません。ご回答ありがとうございました。私どもの仮説が否定できないとのご回答で, 納得できました。この度はありがとうございました。


戻る