10/06/17, 24
■ 低温細菌とデスオキシコレイト培地
【質問】
 私は食品および化粧品原料を製造している企業で品質管理を担当しております。大腸菌群と低温細菌についてお聞きいたします。

 現在, 弊社では大腸菌群用の培地を「栄研 デスオキシコレイト培地」 (重層で) を, 低温細菌用の培地を「日水 CVT寒天培地」を使用しております。工場内の処理水を大量に使用する工程以降から低温細菌が検出されるのですが, それと同じ工程からデスオキシコレイトにも, 大腸菌群のコロニーよりも径がかなり小さく (φ0.1mm以下) 赤黒いものが, 低温細菌と同じくらいのコロニー数が検出されます。培地の質としてはどちらもグラム染色陰性菌を検出するものだったと記憶しておりますが, 低温細菌はデスオキシコレイト培地にも出ることはあるのでしょうか??? そうでなければ, 大腸菌群ということになるのですがいかがなものでしょうか??? ご回答のほど、いただけると助かります。

宜しくお願い致します。

【回答】
「低温細菌はデスオキシコレイト培地にも出ることはあるのか???」という質問ですが, 低温細菌もデスオキシコレイト培地に増殖することがあります。質問者はコロニーの観察を丁寧にされているので感服致します。まさに, 質問者の表現通り「大腸菌群のコロニーよりも径がかなり小さく (φ0.1mm以下) 赤黒い状態」です。赤黒いのは, 増殖した細菌自体の色素産生能や乳糖の弱い分解などが原因と推測しています。回答者も, このような現象に悩まされた経験があり, そのような細菌を分離して同定したことがあります。その結果, Yersinia属という腸内細菌科の細菌でした。低温発育可能で乳糖を分解する細菌としてFlavobacterium属やAeromonas属の細菌も考えられます。また, 水環境から分離される代表的な低温細菌としてPseudomonas属があり, 色素を産生した場合, 培地中ではデスオキシコレイト培地の赤と混ざり合い, 赤黒いコロニーの色になります。以上のことは一例ですので, 質問者自身が赤黒いコロニーを認めた場合はEMB培地に塗抹して集落の性状を確認し, 大腸菌群か否かの確認をすることを勧めます。

(日水製薬・小高 秀正)

【質問者からのお礼】
 その後, 弊社内でもできる試験を試みました。実際には, DES培地に生えた細菌(φ0.1mm, 赤黒いコロニー)を釣菌して培養後, いろいろと実施してみました。グラム染色は陰性の桿菌。CVT寒天培地に画線すると, 低温細菌陽性と同様の赤紫色コロニーを形成し, クロモカルトコリフォームに混釈, 重層すると, 菌は出たのですがコロニーに色は付きませんでした。このようなことも踏まえ, やはり水由来の低温細菌という見方にしました。今後は, 確認検査としてBGLB培地による検査も増やして最終判断をするように致しました。相談にのっていただきましてありがとうございました。同じように疑問に感じている方もいることを知り, ちょっとばかりうれしくも思いました。現在, 工場内の湿気からカビの汚染で悩んでいますが, でも微生物っていろいろと好奇心を掻き立てられる分野で楽しいです。丁寧な回答をいただきまして, 本当にありがとうございました。


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