07/12/04
■ 東畑型, ムタビール型コロニーは何故陥没する
【質問】
 「東畑型, ムタビール型について, なぜコロニーは陥没するのか」という課題が出されたのですが, 図書館で文献を探してもみつかりません。先生のお話では“ガラクトース”が関係するようなのですが・・・どうしてコロニーは陥没するのでしょうか。お忙しいところとは思いますが, 是非ご教授お願いいたします。

【回答】
 大変難しい課題ですね。細菌学あるいは細菌検査を専門とするヒトも容易には回答できない質問です。古い版の「戸田新細菌学」には以下のような記載があります:
 

 Massini (1907) は乳糖非分解の大腸菌が, 培地上で乳糖分解性の娘集落を発生する変異 (糖による代謝機構の阻止変異) を発見した。そしてBact. coli mutabileと命名した (ムタビル型変異)。一方, 村瀬 (1932) も同様の現象を発見し, これはガラクトースによる代謝阻止変異であり, そのリポ多糖体はR型菌よりも単純で〔core+ブドウ糖〕から成ることを明らかにした。

 昭和7年に発表された村瀬の論文には下図のようなスケッチと写真が掲載されています。確かに菌集落の中央部が陥没しています。
 

(村瀬 渉, 細菌学雑誌 440: 975〜999, 1932より引用)

  スケッチの説明には, 陥没したAの部分は透明で極薄いピンク色。この部分は時に粘着性が強く, 白金線で触るとAの部分のみ釣金できる程である。他方, Bの部分は無色でわずかに隆起し, 粘液堤状を呈するとあります。

 確かにB. coli mutabile (E. coli mutabile) はガラクトースを含有する寒天培地で観察される変異菌集落で, gal構造遺伝子に変異があります。ガラクトース以外にも, ガラクトース分子をもつラクトースやラフィノースといった二糖あるいは三糖類を含む寒天培地でも観察されます。しかし, 調べた限り, 何故菌集落の中央部が陥没するのかについて言及している文献はみつかりませんでした。実は, 変異株が混在する細菌細胞集団の菌集落の形成過程は現在でも大きな謎とされています。

下図は変異株を混ぜて菌集落形成過程をコンピュータでシミュレーションしたものですか, 花弁状になったり, 楔状になったり, 様々です。

(Bridson E: What is quantal microbiology? BioMed Sci 17〜20, 2004より引用)
 陥没するということは, 細菌細胞が溶けて形を保てなくなった, 周りの細菌細胞より分裂速度が遅く相対的に窪んでしまったというふたつの可能性が考えられます。乳糖分解という代謝活性の有無が菌集落形成過程でactivatorとして, あるいは逆にrepressorとして働くことは充分考えられます。このあたりのヒントから, このジグゾーパズルを完成させてください。

 この質問に関しては広く御意見を求めます。

(琉球大学・山根 誠久)

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