07/01/30
07/01/31
■ “VRE”保菌者への対応 (転院拒否された)
【質問】
 前略, 私は●●県▲▲市にある▼▼赤十字病院で感染管理をしている医師です。先日, 胆嚢炎で入院された患者様が, 入院後の翌日に施行した経皮経肝胆嚢ドレナージ時に採取した胆汁よりVRE”が検出されました。菌種はEnterococcus casseliflavusです。患者様の状況は, 本処置をした後は軽快されております。当院では外注検査の為, 検体採取後4日目の一時報告ではバンコマイシン中間耐性であり, 菌種が前述であった為, 接触感染予防のみで対処していましたが, 最終報告でVREと診断, 患者様の個室管理, 便培養, 同室者の便培養などをおこなっております。臨床的には保菌者と考えており, 抗菌剤 (ザイボックス) の使用は必要ないと判断していますが, 今後の対応に苦慮しております。その第一は, 本患者様は総胆管に結石があり, 当該施設では治療が難しい為, 他院への転院を考慮していました。しかし, VREが検出された為, 近隣大学病院を含め, 院内感染管理上受け入れを拒否されました。転院する為には, VREの除菌 (抗菌剤の投与) が必要なのか, また日本感染症学会のホームページでは院内感染予防は必要ないと明記されていますが, この件についてエビデンスはあるのでしょうか???ご返答お待ちしております。

【回答】
 状況が正確に把握できない部分があります。まず, 貴院の感染管理ポリシーでは, VRE (vancomycin-resistant enterococci: VRE) をどのように定義されていまか??? もし, 単に, バンコマイシンに対して耐性と判定される最小発育阻止濃度 (MIC) あるいは菌発育阻止円を示す“すべての腸球菌(enterococci)”と定義されているのでしたら, 分離された菌株は正しくVREとなるでしょう。しかし, その定義はナンセンスです。院内感染として大きな問題となるVREは, 遺伝子検査でvanAあるいはvanBをもち, 他の菌株にバンコマイシン耐性を伝達できる菌株のみです。E. casseliflavusE. gallinarumvanCという別の遺伝子が原因でバンコマイシン耐性を示しますが, このVanC型の耐性は他の菌株にバンコマイシン耐性を移しません。ただ, E. casseliflavusE. gallinarumでもvanCに加え, vanAあるいはvanBをもつ菌株もありますから, 必ず遺伝子検査でvanAvanBが陽性なのか, 陰性なのかを検査する必要があります。まず, 貴方の最初の行動は, 外注検査を委託しているところにvanAあるいはvanBが陽性なのかを確認することでする。恐らく回答は, “検査していない”あるいは“陰性です”だと思います (日本ではvanAあるいはvanB陽性のE. casseliflavus はまずいない, いても極々稀と推測できるからです)。とすると, “VRE”という表現ではなく, 「E. casseliflavusが分離されています」という紹介状なら, この患者の手術を受け入れてもらえると確信します。

 もうひとつ, 何故, 腸球菌のバンコマイシン耐性が問題となるのかも考えてみてください。バンコマイシンを腸球菌感染症で実際に使用されたことがありますか??? せいぜいペニシリン・アレルギーの患者に適応がある位です。では何故??? vanAvanBという伝達可能なバンコマイシン耐性遺伝子が菌の種類を越えて, MRSAに移る可能性におびえているのです。“バンコマイシン耐性MRSA”, 考えただけでも恐ろしい話です。世の中にvanAvanBが濃い濃度で, 広い範囲に蔓延るとその可能性が増々高くなるので, 防止策が必要となるのです。

 単にVREという表現のみで, 転院して必要な手術が受けられないという状況には怒りを感じます。これも一種の感染症ハラスメントだと思います。

http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/labo/kyouju/h180911.html
http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/labo/kyouju/h180912.html
http://www.hosp.u-ryukyu.ac.jp/labo/kyouju/h180913.html

(琉球大学・山根 誠久)


【質問者からのお礼】
 早速のご返事, ありがとう御座います。現在, 耐性遺伝子検索中です。当方としては菌種が E. casseliflavusなのでvanCの可能性が高いと近隣の施設にお話したのですが, VREで保健所に報告したのであれば・・・と云う返事だったので (先方は大学病院)。再度, 先方の感染症科の医師の意見を求めるようにしてみます。現状は接触感染予防をしており, 周囲の患者様にも問題はありません。


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