09/07/07
■ 溶連菌の診断と治療
【質問】
 ●●県で開業2年目の■■と申します。下記のことでいろいろネットで検索中にこのサイトにたどりつきました。とても興味深いサイトですね。“溶連菌の診断と治療 (確定診断と治療のタイミング)”についてお尋ねしたいのですが・・・

 一般の臨床現場において, 風邪の起因菌としての溶連菌の確定診断をしようとすると (勿論, 高熱, 咽頭痛, 咽頭部発赤などの溶連菌感染を疑わせる諸症状があるものとして), 迅速検査 (いわゆるインフルエンザキット同様の迅速キット)と, 採血による抗体検査が選択肢になるかと思われます。そこで, 迅速検査における「疑陰性」を避けようとすると, 確実な抗体検査をということで, 実際はASOなどの測定になるかと思われます。その場合, 当院の依頼先では抗体価が240倍以上であれば「陽性」と判定され, 確定診断になります。しかし, 採血のタイミングによっては, 抗体価が180〜200倍程度の中途半端な上昇であったりすることがよくあります。その場合, 上昇傾向とのことで「陽性」と判断してよいのかどうか悩みます。抗体価が10〜20程度であれば, 悩まずに「陰性」と診断できるのですが・・・ペア血清で2週間後に4倍以上に上昇していたら「陽性」・・・という学生時代のうろ覚えの知識も頭をかすめます。

 現実問題として, 風邪症状で溶連菌が起因菌であれば, 後遺症としての重篤な腎機能障害を回避する目的で素早く治療を開始し, 感受性のある抗生剤を10〜14日継続する必要があるかと思います。しかし, 治療のタイミングを考えると, 2週間後のペア血清の結果を待ってからでは遅すぎますよね。「疑陰性」のリスクを避けつつ, 素早く確定診断する, あるいは“確実に否定する”にはどうすべきなのでしょうか???

 現在は, 疑った段階 (大抵は初診時になります) で抗体検査の採血を施行後, 感受性のある抗生剤も含め風邪薬を処方。溶連菌であれば, あっさり抗生剤が効き, 症状が改善することを患者に説明しつつ, 溶連菌のリスクを説明し, 症状改善のいかんに拘わらず抗体検査の結果を聞きに再受診させ, 必要に応じて抗生剤を追加処方しています。

 要は・・・溶連菌感染であっても, どのタイミングで来院するのか, 抗体検査を行うのかで, 結果が左右されてしまうという可能性を懸念しております (抗体価上昇するはずの人であっても, 抗体価が上がりきらないタイミングでの検査になったりしてしまうことによる「疑陰性」の問題とでもいいましょうか)。同じ「疑陰性」のリスクがあるなら, 抗体価測定よりも, その場で行える迅速キット検査の方がよいのでしょうか・・・専門家の方々のご意見を, 臨床上どのように対応するのがスマートなのか, 御教授いただけましたら幸いです。ご多忙中とは思いますが, 宜しくお願い申し上げます。

【回答】
 ご指摘のように, 抗体検査は回復期にならないと充分に交代価が上昇せず, ワンポイントの抗体価による診断基準が示しにくいこと, ペア血清による診断 (5類定点の届出基準にはなっていますが) も実務的には面倒なことから, 急性期の診断には使いにくいです。抗原検査と培養検査を組み合わせて診断するのが一法です。臨床症状から疑ったらまず, 迅速抗原検査 (感度80〜90%) を行う。陰性であれば培養検査を行い, A群β溶連菌が検出されれば (もちろん菌検出が直ちに起炎菌を意味する訳ではありませんが) 抗菌薬を投与するやりかたです。培養結果が判明するまで治療開始が遅れても (最大9日間でも), リウマチ熱の予防には有効であるとされています。臨床的な基準 (発熱, リンパ節腫脹, 滲出性咽頭炎, 咳なしのうち3〜4項目) のみにより治療を開始する考え方もありますが, 不要な抗菌薬投与が多くなることが問題です。

(虎の門病院・米山 彰子)


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