■ 溶連菌と肺炎球菌について | |
【質問】
いつも楽しみに勉強させていただいています。内科の医師から質問がありました。 (1) 膿胸の起炎菌には溶連菌が多いのですが, ストレプトキナーゼを産生菌する溶連菌のグループを教えて下さい。肺炎球菌はストレプトキナーゼを産生菌しますか??? (2) 肺炎球菌は生体内でも自己融解をするのでしょうか??? 自己融解はなぜ起こるのでしょうか??? 【回答】
ストレプトキナーゼ (streptokinase: SK) は, 本来Streptococcus pyogenes (A群溶血レンサ球菌) が菌体外に放出するタンパク質の一種であり,プラスミノゲンやプラスミンと複合体を形成し,この複合体がプラスミノゲンをプラスミンに活性化してフィブリンを分解するとされています。他に同じ溶レンサ菌の一種であるS. dysgalactiae subsp. equisimilis もストレプトキナーゼを産生することがわかってますが,肺炎球菌がストレプトキナーゼを産生するという報告はないようです。またウシの病原菌であるStreptococcus uberisがストレプトキナーゼを産生したという報告も認められますが,このS. uberis由来のストレプトキナーゼはS. pyogenesやS. equisimilis 由来のストレプトキナーゼとは異なり,ウシのプラスミノゲンの活性化はするものの,ヒトのプラスミノゲンは活性化しなかったと記載されており,同じストレプトキナーゼであっても多少性質が異なっているようです。ストレプトキナーゼは活性化されたプラスミンによってフィブリンを溶解するため,フィブリノリジンと表現されることがあり,同様の作用を持つタンパク質は他の菌種にも存在します。例えばStaphylococcus aureusの産生するスタフィロキナーゼ (staphylokinase: SAK) などが知られています。 (2)肺炎球菌は生体内でも自己融解をするのでしょうか??? 自己融解はなぜ起こるのでしょうか??? 肺炎球菌が自己融解酵素 (autolysin) によって自ら溶解して行くことはよく知られていますが,自己融解酵素は本来, 菌の増殖に必要なものであると言われています。それは菌が伸張・分裂する際に,菌体を溶解して切り離す役割を果たすものと考えられています。つまり増殖する際に自己融解酵素は発現されており,生体内においても自己融解は起きているものと考えられます。自己融解がなぜ起こるのかについては難しい問題ですが,細菌の増殖曲線を考えた場合,通常は遅滞期 (lag phase),対数増殖期 (log phase)に続いて静止期 (stationary phase) がしばらく続きますが,肺炎球菌の場合にはこの静止期が極度に短く,すぐに衰退期 (phase of decline) に入るのではないかと考えられます。分裂増殖しながら,同時に自己融解も繰り返しているようであり,宿主と共存するために自らの菌数を調節しているのではなかろうかと推測している方もおられます。クオラムセンシング (quorum sensing) のような機構が働いている可能性もあるかと思いますが,まだ明確にはわかっていないと思います。また自己融解酵素にはpneumolysinなどの病原因子を菌体外へ放出する働きもあるといわれています。生体内で生き延びるための毒素を放出するため,自らの菌体を溶解しているとも考えられます。 (公立玉名中央病院・永田 邦昭) |