研究テーマ
1. 脱ユビキチン化酵素 USP10 の機能解析
2. Saffold Virusの病原性(自己免疫疾患との関係)の解析
メインテーマは、脱ユビキチン化酵素USP10の機能解析です。
USP10は、樋口教授がヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)Tax蛋白に結合する分子として同定したものです。USP10は、DNA修復、ストレス顆粒形成、代謝調節など、細胞ストレス応答の実に様々な局面で機能しており、細胞の恒常性維持におけるマスター的な分子と考えられています。私たちが作製したUSP10ノックアウトマウスは、造血幹細胞の消失を伴う骨髄不全を呈し、このことから、USP10は造血幹細胞の維持に必須の分子であることが明らかとなりました。
現在教室では、新たなUSP10の機能として、ウイルスに対する自然免疫ならびに白血病幹細胞維持における役割について研究を進めています。将来的にはUSP10を標的とした抗ウイルス薬や白血病治療薬の創薬につながる研究をしたいと考えています。
もう一つの研究テーマとして、ウイルス感染と自己免疫疾患の関係の解明を目指した研究を行っています。多発性硬化症のモデル作出に用いられるタイラーマウス脳脊髄炎ウイルス(Theiler’s
murine encephalomyelitis virus, TMEV)を含むピコルナウイルス科カルジオウイルス属のウイルスは、「げっ歯類を宿主とするウイルス」として知られていましたが、2007年にヒトを宿主とするSaffoldウイルス(SAFV)が新たに同定されました。SAFVは、TMEVと高い相同性を保持しており、その病原性が注目されています。SAFV検出症例としては、他のピコルナウイルスと同様に、胃腸炎、上気道炎、膵炎、死亡例を含む脳炎など、様々な報告がありますが、その因果関係の詳細は依然不明です。そこで私たちは、分子ウイルス学的アプローチから、SAFVの病原性、および関連疾患の詳細を明らかにしたいと考えています。
また、SAFVのカプシド蛋白には、ユビキチン化を促進するシグナル配列が存在します。ピコルナウイルス感染と、上述したUSP10との機能的関連性についても詳細に解析し、USP10標的抗ウイルス薬の開発に向けた研究につなげていきたいと考えています。
2016年 6月
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