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令和3年4月1日より当教室の講座主任を拝命しております林 康彦と申します。
脳神経外科は神経学と外科学の融合でありますが、まだまだ未知の領域が多く、さらに診断や治療が確立したと思われている領域でもこれからの発達の余地が多い分野です。一般的に脳神経外科は取り組みにくい学問と思われがちですが、決してそうではありません。しかし、脳血管障害にあるように脳への血流不全や外傷による血腫の圧迫により意識障害などの神経症状が進行して救急処置を要することや中枢神経の重篤な症状は後遺症として生活レベルを大きく障害してしまうということから脳神経外科医の存在は患者さんの人生にとって非常に重要な意味を持ちます。逆にそれだけこの仕事がやりがいのあることで患者さんから感謝されるものであるということになります。
脳神経外科学は、脳腫瘍、脳血管障害、頭部外傷に大別されます。さらに脳腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に分けられます。良性腫瘍は全て摘出すれば再発がほぼ無いと考えられるものですが、ある程度残存させても再増大が無く症状が改善すればそのまま経過をみることができる場合もあります。従って、術前の画像診断や術中の顕微鏡下の観察で摘出可能かどうかを判断することで合併症を回避できる可能性が高まります。また近年では間脳下垂体腫瘍に対して行われているように内視鏡の適応が拡大して、さらに安全かつ確実な摘出が行われるようになっています。悪性腫瘍は主に脳内に発生するために可能な限り多く摘出することが求められますが、やはり機能を落とさないようにするための術前の画像診断や術中の機能モニタリングが重要となっています。さらに残存した腫瘍に対する化学療法や放射線療法なども合わせた集学的療法をいかに効果的に行うかが重要で、最近では覚醒下の脳腫瘍摘出術なども行われています。
脳血管障害ではくも膜下出血で発症する破裂脳動脈瘤に対する開頭クリッピング術は基本手技となり、最近は可能であれば低侵襲な血管内治療で行うコイル塞栓術が第一選択で行われている場合が多くなっており、長期の安定した成績も出されるようになっています。また、脳出血に対しても従来の開頭血腫除去術を施行するよりも内視鏡下に血腫除去術を低侵襲に行うことが増えています。さらに超急性期の脳虚血に対する血行再建術(血栓回収術)や慢性期の血行再建術である血管吻合術もその診断と適応を正確に行えば大きな効果を得ることができます。
頭部外傷は最近ではその頻度がかなり少なくなったとはいえ、まだ重要な領域であると言えます。急性硬膜外もしくは硬膜下血腫、外傷性脳内出血などに対する急性期の手術は新しいものにはなっていませんが、術後管理の進歩により比較的安全に術後の経過を追えるようになっております。しかし、脳血管障害後と合わせて受傷後の高次脳機能または運動機能障害の改善も今後も継続した重要な問題となると思われます。
それ以外には脊椎脊髄疾患や小児先天性中枢神経奇形なども重要な領域と言えます。脊椎脊髄疾患は日常生活を妨げる運動障害や感覚障害の原因となっていることが多く、これらも正確な画像診断に基づいた治療法の選択が重要となります。また小児先天性奇形に関しても、専門医が少ないために正確な診断と治療が特定の医療機関でしか行えない現状がありますが、当院では私自身が小児神経外科学会認定医となっているのに加えて、小児高度外科医療センターの設立も控えて小児外科、小児心臓血管外科と合わせて、中枢神経奇形に対しても高度な治療を提供できます。
その他、眼窩内腫瘍、感染症、機能外科、末梢神経疾患なども治療対象としております。上記疾患の治療には他科との連携が必須で、当院でも脳神経内科をはじめとして、救急科、放射線科、整形外科、内分泌代謝内科、小児科・小児外科、リハビリテーション科などと現在も密接な連携関係があります。これらの連携内で当科は特に診断と治療の精度において高度な知識と技術を提供して、より良好な治療成績に繋げることができるよう教室員一同精進していく所存です。また、これから脳神経外科を志す学生や研修医の皆様にも充実した実習、研修ばかりでなく、これからの未来の脳神経外科を担って頂けるように共に研鑽を積みたいと願っております。