卵巣腫瘍茎捻転
はじめに
この書類は、私が以前に学会発表用の資料として作成した覚え書きです。
一部に、自験のデータも書き加えました。
意味不明な点などございましたらご指摘お願いします。
目次
発症機転 | 発症しやすい条件
| 発生頻度 | 妊娠合併例
| 発症年齢 | 発生側
| 腫瘍の大きさ | 病態生理
| 自覚症状 | 他覚症状
| 鑑別疾患 | 腫瘍組織型
| 治療
1)発症機転
卵巣腫瘍茎捻転を発症させる要因とは?
- 腫瘍の発育方向が不規則なため回旋を助長。
- 茎内血管の状態(hemodynamic condition)
- 腫瘍に作用する外力
- 腫瘍の硬度不均衡
- 腸蠕動
- 患者の一方向的運動
2)発症しやすい条件
卵巣腫瘍茎捻転を発症しやすい条件として、以下の点が挙げられていました。
- 周囲組織と癒着を持たない
- 広靭帯発育でない
- 一定の大きさ(一般に過大および過小腫瘍に捻転はない)
- 球形またはそれに近く表面平滑であること
3)発生頻度
卵巣腫瘍茎捻転の発生頻度について過去の報告を列記しました。
- 卵巣腫瘍手術数361例中茎捻転37例(37/361):10.2%(1986:金武)
- 59/687(8.6%)(1981:西田)
- 34/247(13.7%)(1994:金城)
- 38/389(9.8%)(1996:藤井)
- 7.4%(1942:Geist)
- 12.1%(1989:宮城)
- 11.8%(1990:出口)
4)妊娠合併例
- 妊娠子宮の増大や、分娩直後の子宮の急激な退縮によりしばしば茎捻転
を起こすと言われている。
- second trimester(卵巣が骨盤腔内より腹腔内に移行)での発症が
2/3、postpartum(分娩直後の子宮の急激な退縮)での発症が1/3と
報告(1964:McGowan)
頻度
- 37例中5例:13.5%(1986:金武)
- 茎捻転の23%が妊娠に合併(1964:McGowan)
- 19/59(32.2%)(1981:西田)
- 2/34(5.9%)(1994:金城)
- 3/38(7.9%)(1996:藤井)
5)発症年齢
平均年齢
- 34.0歳(5歳〜80歳)(1981:西田)
- 36歳(4カ月〜78歳)(1986:金武)
- 38.9歳(15歳〜85歳)(1996:藤井)
頻度
| 20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 合計 |
西田 (1981) | 21/59 (35.6%) | 16/59 (27.1%) |
8/59 (13.6%) | 45/59 (76.3%) |
金武 (1986) | 16/37 (43.2%) | 9/37 (24.3%) |
6/37 (16.2%) | 31/37 (83.8%) |
金城 (1994) | 8/34 (23.5%) | 8/34 (23.5%) |
6/34 (17.6%) | 22/34 (67.6%) |
藤井 (1996) | 10/38 (26.3%) | 9/38 (23.7%) |
8/38 (21.1%) | 27/38 (71.1%) |
20〜40歳代に好発する理由
- 同年代に好発する類皮嚢胞腫に茎捻転の合併が多発
- 生殖年齢である
- より活動的である
- 本症の好発年齢と類皮嚢胞腫のそれが一致(1958:Marcial-Rojas)
6)発生側
従来より右側に多いことが指摘されている
- 右:左=2:1(1964:McGowan)
- 25:12(1986:金武)
- 19:15(1994:金城)
- 22:17(1996:藤井)
左側に少ない理由
- S状結腸が占拠するため小腸の蠕動や体位性変換の影響を回避できる(1922:Sellheim)(1912:Anspach)
両側発生
- 胞状奇胎に伴ったルテイン嚢胞の両側茎捻転例の報告(1941:Fontana)(1964:McGowan)
- 全例片側(37例)(1986:金武)
- 1/38(2.6%)(1996:藤井)
7)腫瘍の大きさ
茎捻転を起こした卵巣腫瘍の大きさについて過去の報告を列記しました。
- 中等度の大きさ(直径10〜12cm)
- 新生児頭大に多い(1985:Nichols)
- 直径5〜15cmが89%(1955:Peterson)
- 直径5〜15cmが84.1%(1970:Jack)
- 直径5〜15cmが32/37(87%)(1986:金武)
- 直径5〜15cmが93.5%(1990:出口)
- 直径7〜10cmが23/39(59.0%)(1996:藤井)
- 鵞卵大〜小児頭大で約85%、手拳大が24/59(40.7%)(1981:西田)
- 300g以下(75%)(1994:金城)
- 平均・約10cm(1986:金武)
8)病態生理
絞扼が重度の時
- 急激な血管の絞扼モ電撃性下腹部痛、悪心・嘔吐モショック
- 静脈・リンパ系の循環遮断モ腫瘍組織の鬱血・浮腫モ壊死・感染モ発熱・白血球増多
- 腫瘍茎の静脈流の停止・まだ動脈流の保たれている状態モ静脈圧の上昇により静脈破綻を惹起モ腹腔内出血モCullen's sign、右肩部痛、腹部膨満
cf.30.8%に開腹時、血液を含有した腹腔内貯留液を認めた。(1964:McGowan)
絞扼が軽度の時
- 腫瘍壁の一部に組織の変性モ他の骨盤内臓器と癒着モ癒着した周囲組織の血行を二次的に受け発育を続ける(1894:久保)モ癒着性イレウス・腹膜炎併発による麻痺性イレウス
極めて緩徐な茎捻転の場合
- 巨大化した卵巣浮腫(1977:Kindermann)
- 卵巣間質の浮腫による刺激モ間質細胞(Stroma cell)の黄体様変化モ男性化徴候(1971:Roth)(1969:Kalstone)
9)自覚症状
- 急性発症(1985:Nichols)
- 既往に同様の腹痛を呈することが多い(1964:McGowan)(1985:Nichols)
- 12/37(32%)(1986:金武)
- 9/38(27.3%)(1996:藤井)
- 悪心・嘔吐(消化器疾患との鑑別を難にする)
- 16/37(43%)(1986:金武)
- 20/38(52.6%)(1996:藤井)
- 不正性器出血
- 2/37(5%)(1986:金武)
- 2/38(5.3%)(1996:藤井)
cf.腫瘍に黄体が付随している場合、急激な黄体ホルモンの消退により不正性器出血を来しうる(1983:Mack)
10)他覚症状
- 腫瘤触知
- 触診所見
- Warneck's sign(腫瘤茎部の圧痛)
- Kustner's sign(類皮嚢胞腫は子宮全面にしばしば位置する)
- 37℃台の発熱
- 19/37(51%)(1986:金武)
- 13/38(34.2%)(1996:藤井)
- 軽度白血球増多(≧10000)
- 13/37(42%)(1986:金武)
- 14/38(36.8%)(1996:藤井)
11)鑑別疾患
- 急性虫垂炎:術前誤診例の28.8%(1964:McGowan)
- 貯留嚢胞破裂:術前誤診例の46.2%(1996:藤井)
12)腫瘍組織型
(a)類皮嚢胞腫
最も多い(1888:Thornton)
頻度
- 卵巣腫瘍茎捻転37例中類皮嚢胞腫12例:32%(1986:金武)
- 16/34(47.1%)(1994:金城)
- 15/42(35.7%)(1996:藤井)
- 40.0%(1981:西田)
- 35.1%(1983:佐藤)
- 63%(1990:出口)
類皮嚢胞腫に合併する頻度
茎捻転を起こした類皮嚢胞腫/全類皮嚢胞腫(%)
- 16.1%(1955:Peterson)
- 10.8%(1975:Pantoja)
- 13%(1981:西田)
- 28.6%(1994:金城)
(b)傍卵巣嚢腫
頻度
- 全卵巣腫瘍茎捻転9例中傍卵巣嚢腫8例:88.9%(1978:Ranney)
- 3/42(7.1%)(1996:藤井)
(c)悪性腫瘍
少ない
頻度
- 卵巣腫瘍茎捻転59例中悪性腫瘍1例:1.7%(1981:西田)
- 0/130(0%)(1983:佐藤)
- 1/37(3%)(1994:金城)
- 2/42(5.3%)(1996:藤井)
悪性腫瘍が少ない理由
- 隣接臓器に癒着・浸潤しやすいため(1978:Demopuloss)
(d)正常卵巣
頻度
- 全茎捻転37例中正常卵巣の捻転8例:5%(1986:金武)
- 2/42(4.8%)(1996:藤井)
(e)組織診断不能例
頻度
- 13/59(22.0%)(1981:西田)
- 7/37(19%)、全例発症後24時間以上経過(1986:金武)
- 1/42(2.9%)(1994:金城)
- 4/42(9.5%)(1996:金城)
時間経過と組織学的変化(1981:西田)
- 発症後12時間:間質やや浮腫状、出血なし
- 発症後24時間:血管拡張、間質への出血、炎症細胞の出現、間質細胞の変性、浮腫
- 発症後36時間:組織変性はより強度
13)治療
手術療法が第一選択
(a)腫瘍摘出術
- 生殖年齢であること多い
- 良性腫瘍が多い
- 卵巣組織の血液循環が保たれている場合
頻度
- 5/34(8.8%)(1994:金城)
- 13.6%(1970:Jack)
- 18/59(30.5%)発症後36時間以上では不能(1981:西田)
(b)付属器摘除
頻度
- 86.4%(1970:Jack)
- 76%(1989:吉野)
- 85.3%(1994:金城)
(c)子宮全摘術+両側付属器摘除術
(d)緊急手術
頻度
- 68%(1970:Jack)
- 76%(1989:吉野)
- 73.5%(1994:金城)
cf.病変部の卵巣卵管を供給する血管系に血栓形成を認めたり、それらの臓器が壊死に陥っている場合、捻転部を元に戻して腫瘍摘出を行うと血栓や壊死物質が全身循環に入り、肺塞栓が起こりうる。(1985:Nichols)
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