03/01/08
■ ノカルディア菌のパルスフィールド電気泳動について
【質問】
 試行錯誤しました。でも大気の成分までは気づきませんでした。培地の成分濃度を変えることで, ある種の菌を強く阻止する菌株が数株現れました。次に, 菌株間の違いを見るためにパルスフィ−ルド電気泳動を行いました。しかし, キットに入っている制限酵素や論文に載っている制限酵素を用いても切断できませんでした。私は制限酵素ではなく, 溶菌酵素 (リゾチ−ムとか) の問題だと思い, アグロモペプチダ−ゼを用いて電気泳動を行ったのですが, 上手く切断できません。何かよい溶菌酵素をご存じでしたら教えていただけないでしょうか???

 菌のことをすっかり載せるのを忘れてました, 申し訳ございません。菌はNocardia菌でパルスフィ−ルド電気泳動を行っています。

[前回の関連質問: http://www.jarmam.gr.jp/situmon/houshakin.html

【回答】
 Nocardia のパルスフィ−ルド電気泳動が, 上手くいかない原因が何処にあるのかは特定できませんが, 質問者がお考えのリゾチ−ムの問題ではないように思います。Nocardia はグラム陽性ですのでリゾチ−ムよりもアクロモペプチダ−ゼの方が確かに適しているように考えますが, リゾチ−ムで充分に溶解可能(文献1) なはずです。

 キットに入っている, または論文に掲載されている制限酵素を試されたとのことですが, 具体的な酵素名が示されておりませんので判りかねますが, むしろ用いた制限酵素の選択の問題が大きいのではないかと思います。

 ご存知のようにNocardiaGenomic DNA は G+C 含量が 70% 前後とかなり高いことを意識して, 適当な制限酵素を選択する必要があります。A+T rich な認識配列を有する Ase I Dra I および Ssp I 制限酵素を検討した論文(2)があり, 結論としては Ase I が10〜18のそれぞれ異なるフラグメントに切断することが示されております。なお, この場合の供試菌株は Nocardia farcinia とされております。一方, Nocardia asteroides についての報告もありますが, こちらの方は Xba I が最適な制限酵素である(文献3)と示されております。

 G+C含量が 70% 前後といっても, 64%〜72% まで大きな幅があります。つまりは, 同じ Nocardia であっても, 菌種によって最適な制限酵素が異なるようです。用いた Nocardia の菌種名によって選択されるべき制限酵素が決まってくるようです。
 なお、下記の論文から詳細な情報を得て下さい。

(1) Wallace, R. J. Jr., Zhang, Y., Brown, B. A., Fraser, V., Mazurek, G.H., and  Maloney, S.: DNA large restriction fragment patterns of sporadic and epidemic nosocomial strains of Mycobacterium chelonae and Mycobacterium abscessus. J. Clin. Microbiol. 1993. 31(10): 2697-2701.

(2) Blumel, J., Blumel, E., Yassin, A. F., Schmidt-Rotte, H., and Schaal, K. P.: Typing of Nocardia farcinica by pulsed-field gel electrophoresis reveals an endemic strain as source of hospital infections. J. Clin. Microbiol. 1998. 36(1): 118-122.

(3) Louie, L., Louie, M., and Simor, A. E.   Investigation of a pseudo-outbreak of Nocardia asteroides infection by pulsed-field gel electrophoresis and randomly amplified polymorphic DNA PCR. J. Clin. Microbiol. 1997. 35(6): 1582-1584.

(信州大学・川上 由行)

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