04/03/15
04/03/17
■ “劉の反応”について教えてください
【質問】
 お世話になります。私は健康食品の会社で試験を担当しています。身近に試験について聞ける人がいないので, 色々なマニュアルや文献を参考に試験をしております。この質問箱も参考にしています。

 グラム染色がうまくいかないとの質問のなかに“劉の反応”について載っていました[http://www.jarmam.gr.jp/situmon/gram4.html]。私もグラム染色でいつも苦労していますが, この“劉の反応”に興味を持ち, 図書館, ネットサイトなどで調べましたが, 見つけることが出来ませんでした。詳しく知りたいのですが, 教えていただけないでしょうか???

 “劉の反応”で使用する3%KOH水溶液はどの位作ればよいか, 使用後の処理の仕方など・・・。本当に初歩の質問で申し訳ないのですが, どうぞ宜しくお願いします。

【回答】
 劉栄標 (北里研究所) は, グラム染色法の簡易化を目指して研究を進め, 石炭酸水, 濃硫酸および水酸化カリウム水溶液に対する態度がグラム陽性菌と陰性菌で異なることに着目しました。その結果, 分離菌株の判断に利用できることを確認するに至ったわけであります。

(1) 石炭酸水法
 新鮮培養菌をスライドグラスに塗抹し乾燥, 火炎固定後, 5% 石炭酸水を満載して数回火炎を通過 (スライドグラスを軽く揺り動かせながら) させると, グラム陰性菌なら塗抹菌がスライドグラス面から離れて浮き上がってくる。しかし, グラム陽性菌ではこのような現象は起こらない。火炎上での変化をみるのでやや危険を伴う。

[文献1 劉 栄標: 極めて簡単なる「グラム」陰陽性菌鑑別法, 東京医事新誌 No.3102, 35, 1938

(2) 濃硫酸法
 濃硫酸半滴をスライドグラスに採り, 固形培地上の菌苔を混合する。グラム陰性菌は透明になるが, 陽性菌は無変化である。濃硫酸は危険性があるので勧められない。

(3) 水酸化カリウム法
 スライドグラスの中央にガラス鉛筆で2 cm程度の円を描き,, この中央に3% KOH水溶液をパスツール・ピペットで1滴 (約0.05 ml) または1_2白金耳量を滴下します。なるべく若い培養菌を白金線で釣菌し, その菌苔をKOHと混和します。グラム陽性菌は何の変化もないのですが, グラム陰性菌は菌苔が粘稠性となり, 静かに引き上げると糸を引いたようになります。 このKOH処理によって粘稠となり糸をひくようになるのは, おそらくグラム陰性菌の外膜が傷害されDNAが流出するためと考えられ, グラム陽性菌ではDNAの流出を来たすような障害を受けないためと考えられている。

[文献2 Ryu, E.: A simple method of differentiation between Gram-positive and Gram-negative organisms without staining. Kitasato Arch Exp Med 17, 58, 1940

[文献3 劉 栄標: グラム陰陽性菌の簡易鑑別第_法に就いて. 日本獣医学雑誌 1: 204, 1939

 3% 水酸化カリウム水溶液の作成量につきましては, 日常使用量に応じて考えればよいわけで, 必要最少量にしておくとよいでしょう。また1株につき0.05 ml程度の利用量ですから, 使用後の処理の仕方は検査終了後の滅菌処理と水洗で十分と思います。

 劉先生は, グラム陰性菌29菌種103株とグラム陽性菌21菌種108株を用い, 先に概説した3つの方法を行っています。この中で石炭酸水法について, グラム陽性菌は顕微鏡によるグラム染色性と同じであったが, グラム陰性菌のうちNeisseria gonorrhoeae 9株を始め6菌種, 19株すべてが染色法と一致しなかったと報告しています。これに対し濃硫酸法と水酸化カリウム法では, 嫌気性菌のClostridium tetaniの1菌種 (20株) のみがグラム陰性菌と同様の反応 (染色性と不一致) を示した以外はすべて良好であったと述べています。このようにグラム染色に代わる完全な検査法とは言えませんが, ひとつの補助検査としては利用できるものと私は考えております。

(大手前病院・山中 喜代治)
【質問者からのお礼】
 ご回答ありがとうございました。早速, 試験に取り入れてみます。また質問をする機会があるかもしれませんが, その時は宜しくお願い致します。
[戻る]