02/08/12
■ 水道水などの「大腸菌陰性」の“陰性”の意味するものは???
【質問】
 はじめまして, 職業は製造業(紫外線ランプ)です。質問させていただく内容はごくごく基本的なことなのですが, 厚生省などの規制で水道水や浴場, プール? (この辺は怪しいのですが), これらの水中で大腸菌は“陰性”であることなどよく目にします、例えば何CFU/100 ml以下といった規制は分かるのですが, “陰性”とはどのような試験法でどのような評価で判定するのでしょうか? 例えば原水の100倍希釈水で培養後にコロニーが発現しないと“陰性”であるとか。原水で培養後、何CFU/100 ml以下で“陰性”とかあるのでしょうか? もしよろしければ詳しい「試験法と評価法」など教えていただきたいと思います。普段、“陰性”と口にすることがあるのですが, この辺りの明確な“陰性の定義”がわかりません。

お忙しいとこと申し訳ありませんが, よろしくお願いいたします。

【回答】
 回答申し上げます。水道水等の飲料に供する水質基準では, 以下に記載する6つの要件が規定されています。即ち,

 (1) 病原微生物に汚染されていない、またはその疑いがない。
 (2) シアン、水銀などの有害物質を含まない。
 (3) 銅、鉄、フッ素などを過量に含まない。
 (4) 異常な酸性またはアルカリ性を示さない。
 (5) 異常な臭味がない。
 (6) 外観が無色透明である。

 この中で, (1) の項が今回のご質問に関連してきます。

 まずは, 飲料水は無菌である必要はなく, 「水道法」では,

 (1) 1 ml中の一般細菌数 (標準寒天培地法) が 100 以下であること。
 (2) 大腸菌群 (LB-BGL培地法) が検出されないこと。

 と記載されています。 ここで, (2) の「大腸菌群・・・検出されないこと。」の意味ですが, 以下のようにご理解下さい。

《人や家畜などの動物の糞便で汚れた水などが混入したかどうかを判定するために, 一般に被検水 50 ml 中に大腸菌群がいるかどうか検査し, いる場合は「検出」, いない場合は「不検出」で表記します。》つまりは, 被検水 50 ml 中の存否を言っているのです。

 大腸菌群とは, いわゆる学名 Escherichia coli とは別に呼称されるもので, グラム陰性無芽胞桿菌, 乳糖を分解し, 酸とガスを産生する通性嫌気性の一群をいい, この名称は衛生医学領域で使用される用語です。

 大腸菌群の検出法には, 寒天培地を用いて菌の実測値を求める方法や液体培地を用いた試験管法により確率論的に菌数のMPN (最確数) 値を求める BGLB 培地 MPN 法があり, 通常, 前者は菌量の多いと思われる検体に適用されます。国土交通省では BGLB培地 MPN 法を標準法としています。この MPN 法については, 既にその詳細がこの「JARMAM 質問箱」の「これまでの質問」の「環境汚染での“大腸菌群”の意味するところは???」[http://www.jarmam.gr.jp/situmon/daichokin.html]のところで回答されておりますので割愛させていただきますが, 要するに最確数の原理は, 細菌の分布が Poisson (ポアソン) 分布の法則にしたがっているという考え方に立脚しているものです。数段階の連続した被検水の同一希釈度の試料を数本ずつ BGLB ブイヨン発酵管に接種して, 大腸菌群の存否を試験し, この成績から確率論的に大腸菌群の数値を算出し, これを最確数 (MPN) で表記する方法です。具体的には, 試料の 10, 1および 0.1 ml を, それぞれ5本 (3本) ずつの発酵管に加えて得た結果に基づく試料 100 ml 中の菌数(最確数)を示します。つまり100 ml 中にいなければ, 当然 50 ml 中にもいないわけです。

 最後にもう一度, 御質問の要点を整理します。大腸菌群が“陰性”というのは, 最確数法による試験で, 「被検水 50 ml 中に大腸菌群が非検出であること」ということです。

(信州大学・川上 由行)

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