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【質問】
こんにちは。○×薬品株式会社に勤務しています。JARMAMの質問箱をよく参考にさせていただいています。突然のメールで恐縮ですが,
質問させていただきたく思います。
海外で売られているStreptococcus salivariusを日本でも製品化しようと試みています。検討のため,
凍結乾燥された菌株を海外より取り寄せました。初めての培養なので, 培養条件などを決定しようと思い,
BHIA, 血液寒天, Mitis Salivarius Agarを用いて菌数を測定したところなのですが,
血液寒天 (10%羊脱繊維素血液添加BHIA) に生えた菌にα溶血性を示すものと示さないものが同程度に混在していました。これは,
S→R変異のような, 一種の変異と考えていいのでしょうか???[ http://www.jarmam.gr.jp/situmon/keidai_baiyo.html
]それとも、2種類の菌が存在すると考えるべきでしょうか??? お忙しい中,
大変申し訳ありませんが, どうかご回答よろしくお願いします。
【回答】
Streptococcus salivarius は人の口腔内に常在する代表的な連鎖球菌の一つですが,大多数が非溶血性で,
ときにαまたはβ溶血を示すとされています。ご質問の凍結乾燥菌株の件ですが,溶血性は基礎培地や添加する血液の種類,培養条件または保存によっても多様に変化します。私が以前に“Streptococcus
milleri” group の検討を行った際に経験したことですが,スキムミルクで保存した臨床分離株を溶解後に再度血液寒天培地に接種してみると,コロニー形態や溶血性が初代分離したときの性状とは異なる菌株が複数認められました。BHIAを基礎培地とした羊血液寒天培地
(炭酸ガス培養) を使用して検討した結果,β溶血を示す菌株がα溶血や非溶血に変化することはありませんでしたが,α溶血や非溶血の菌株は初代分離時と保存後では相互に変化し,微弱なα溶血を示す菌株はコロニーが密集した部分と単独で存在する部分とでは異なって見えることもありました。またご質問のようにα溶血と非溶血コロニーが同じ培地上で混在することもありました。異なる溶血性を示す菌株の性状を調べてみると,生化学的性状や抗原性
(Lancefield 群特異抗原) に変化はなく,溶血性だけが違っているという結果でした。遺伝学的な検討までは行っていませんが,おそらく2種類の菌株が存在するのではなく,α溶血と非溶血とは境界が不明瞭であり,同一菌株の中でも異なって見えることがあるのではないかと思います。β溶血との鑑別は比較的容易ですが,α溶血や非溶血を示す菌株の中には非β溶血としか表現できないような菌株も存在します。
(公立玉名中央病院・永田 邦昭)
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