05/12/09
■ 健常者も下痢 (毒素) 原性大腸菌を保有する???
【質問】
 いつも丁寧なご回答ありがとうございます。

 下痢・腹痛など入院時は一切なく, 整形外科の手術で入院された患者さんなのですが, 手術の後で抗生剤を使用しなくなったあたりから, やや軟便になってきたということで便培養の検査が出てきました。検査の結果, C. difficile, MRSAなどは発育を認めませんでしたが, 毒素原性大腸菌が検出されました。

 実はこのようなケースが何回かありまして, 下痢・腹痛とは一切関係ない入院にもかかわらず, 入院されてしばらくたった後に患者さんの便培養を行うと下痢原性大腸菌が検出されるというケースが何回かありました。検出された下痢原性大腸菌について調べたところ, O抗原に特別な偏りはなく, 院内感染は考えにくいのですが, 原因がわからず困っています。自分が考えるに, “実は健常人でも発症しないだけで, ある程度下痢原性大腸菌を保菌しているヒトがいる”のでは??? と勝手に非常識な考えをめぐらせたりしていますが, どうにも分かりません。例えば以前質問したのですが, 就職前の健康診断の便検査をしたところ, 腸管病原性大腸菌が検出されたヒトがいました (回答ありがとうございました)[http://www.jarmam.gr.jp/situmon2/kenshin-choukan.html]。症状もなく, 一時的なものだったのかどうかは分かりませんが, とにかく保菌していたわけです。そう考えると, 今回のようなケースも, もとから持っていたのでは??? と考えたくなってしまいます。実際のところはどのように考えたらよいのでしょうか??? 健常人でも珍しくなく, 下痢原性大腸菌を持っているものなのでしょうか??? 変な質問になってしまい申し訳ありませんが, どうか回答の程よろしくお願い致します。

【回答】
 健常者の検便においても, 極めて少数ですが下痢原性大腸菌が検出されることはあります。その検出率がどの程度かは明らかにされていません。健常者便において下痢原性大腸菌が検出される場合には, 指摘されるように“保菌状態”にあるといえます。この保菌は, 一過性のものと, 定住性ものとに区別されますが, ほとんどは一過性のものです。一過性のものは, 汚染された食品や食べ物を介して保菌状態になりますが, 時間的経過と共に腸管から排除される運命にあります。

 健常者といえども, 本菌が検出され, 下痢症状が見られたら感染状態にあるといえます。通常は集団感染ではなく, 散発性の感染であるので, 検出菌のO抗原型はさまざまであり, 特定の抗原型に集中することはありません。問題は院内感染の防止であり, 給食・調理関係者の定期的な検便が必要です。時には, 医療従事者が外食時に感染し, 下痢症状を来していることがありますので, 早期の発見と医療現場からの隔離が必要です。

(近畿大学・古田 格)
【質問者からのお礼】
 いつもいつも丁寧なご回答ありがとうございます。その後は残念ながらO抗原にやや偏りが出てきてしまい, 院内感染も視野に入れ, 感染症委員会でも話し合いました。それにしても細菌検査には, 定住・定着, 一過性など, 他の検査にはない結果の解釈がありますので, 今更ながら難しさを感じています。自分でも, このような質問はいいのかな??? と思うような質問でしたが, 回答ありがとうございました。非常に助かりました。これからもやや場違いな質問をしてしまうことがあるかもしれませんが, どうかよろしくお願いします。本当にありがとうございました。

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