■ 16S rRNAでの微生物同定 | |
【質問】
私は会員ではありませんので, 質問可能かどうか分かりませんが, もしよろしければ教えてください。 私は現在, 会社で新たに微生物試験の立ち上げ作業を行っています。 一般環境 (土壌や水) から単離した微生物の同定を行うため 16S rRNAの塩基配列を調査することを目的に, 必要な機材, 試薬をそろえています。その作業の中で, プライマーを調査・購入しようとしたとき “16S rRNAの全長を増幅させる物”と “上流側500pbを増幅させる物”の2種類がありました。メーカーの人には「全長でなくても500pbで十分です」と言われたのですが, その理由, また同定を行う上での500pbでの信頼性について, そのような内容に関する文献等ございましたら紹介頂けないでしょうか。どうぞ, よろしく御願いします。 【回答】
(1) 16S rRNA遺伝子の全長ではなく, 上流側500 bpだけを検索する理由。 (2) 同定を行う上での500 bpでの信頼性について。 まずは(1)についてですが, 主な理由として“労力とコスト”の問題が考えられます。DNAシーケンスに用いられる簡便な方法としてダイレクトシーケンス法があり, 1回のダイレクトシーケンス法により読まれるDNA塩基数が500 bp程度なのです。全長をシーケンスしようとすると最低3_4回はダイレクトシーケンス法にてシーケンスを実施しなければならなくなり, その分, 労力とコストがかかってしまいます。 次に(2)について「(1)についての回答も含む」ですが, 16S rRNA遺伝子の塩基配列の上流側500 bpを用いた臨床分離菌株の同定評価についての文献 (1) _(4)を以下に示しました。参考にしてみてください。検索するデータベースさえ間違わなければ, ほとんどの場合, 上流側500 bpを用いることで属レベルでの菌の推定が可能となります。 このように, 16S rRNA遺伝子配列を利用した菌の検索は, 上流側500 bpを用いて行うのが実に合理的な方法であると考えられています。また, 臨床分離株においては, 16S rRNA遺伝子の塩基配列の上流側500 bpと全長配列のどちらを使用しても菌の推定を行うことができると考えられますが, 環境由来菌については, 未だにデータベースに登録されていない菌が多いために, 菌の推定が困難な場合が多々あると思います。 〔参考文献〕
2. Bosshard PP, Abels S, Zbinden R, Bottger EC, Altwegg M.: Ribosomal DNA sequencing for identification of aerobic gram-positive rods in the clinical laboratory (an 18-month evaluation). J Clin Microbiol. 41(9): 4134〜4140, 2003. 3. Simmon KE, Croft AC, Petti CA.: Application of SmartGene IDNS software to partial 16S rRNA gene sequences for a diverse group of bacteria in a clinical laboratory. J Clin Microbiol. 44(12): 4400〜4406, 2006. 4. Hall L, Doerr KA, Wohlfiel SL, Roberts GD.: Evaluation of the MicroSeq system for identification of mycobacteria by 16S ribosomal DNA sequencing and its integration into a routine clinical mycobacteriology laboratory. J Clin Microbiol. 41(4): 1447〜1453, 2003. (信州大学・松本 竹久)
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