■ 学生実習での“マラカイトグリーンの毒性” | |
【質問】
●●大学の■■と申します。いつも貴重な情報ありがとうございます。 今度, 細菌学実習で初めてWirtz法を用いた芽胞染色を実施しようかと考えております。そこで気になっておりますのが, “マラカイトグリーンの毒性”についてです。5%水溶液を当方で予め準備して使用しますが, 学生さんたちの中には必ず手や皮膚, あるいは衣服に付着させる者が出てくるものと予想されます。化学物質等安全データシートを参考にしますと,「保護手袋, 保護衣, 保護眼鏡, 保護面を着用すること。必要に応じて個人用保護具や換気装置を使用し, ばく露を避けること。皮膚または毛に付着した場合, 直ちに汚染された衣類をすべて脱ぎ, または取り除くこと。皮膚を流水またはシャワーで洗うこと」と標準的な記載がなされております。ここでお聞きしたいのは, 粉末を扱うわけではないので, マスクは必要ないと考えますが, 手袋は必要でしょうか。もし素手で問題ない場合, 手や皮膚に付着した際は流水中で洗うだけで十分でしょうか。また, 衣服に付いた場合もグラム染色液のように付着させたままで特に問題ないのでしょうか。もちろん実習終了時には, 白衣の洗濯は義務付けております。また, 全員が一斉に加温染色を始めた場合, 湯気が室内に充満し, 気分不良の者が出てくる可能性はないでしょうか。もちろん換気は十分致す予定です。 以上, 基本的な質問ですが, どうぞ宜しくご教示お願い致します。 【回答】
マラカイトグリーンですが, 確かに「毒性」についてはいろいろなところで指摘されていますが, そもそもマラカイトグリーンは安価であり, 抗菌活性 (特にグラム陽性菌に対する抗菌作用) を有することから結核菌培養用の小川培地等にも含有されるなど, 多方面で利用されて来ています。近年になって発がん性が疑われる物質との類似性が指摘され, 特に食用動物 (養殖魚類) への使用が制限されていますが, 熱帯魚や金魚そしてメダカ等の観賞魚については, 細菌感染の治療薬として用いられて来ています。 マラカイトグリーンの毒性については動物実験により発がん性等を「示唆する」報告 (1〜3) も確かに散見されますが, あくまでも「示唆する」論文の域を出ていないと思います。従って, きちんとした毒性評価は未だ為されておらず, 国際基準も設定されていないのが実状だと思います。 本年改定された化学物質等安全データシートでも, ご指摘のように, 厳重過ぎるほどの留意事項が記されています。この記載事項を遵守すれば, まったく問題はないと考えますが, 何故マラカイトグリーンがこれ程までに大きく扱われるのでしょうか??? 私には大袈裟過ぎるのではないかと思う程です。 マラカイトグリーンは, グラム染色においてゲンチアナ紫の代わりにも利用されて来ました。また, 日常使用しているメチレン青にだって抗菌作用を有することが知られ, 前述しましたように, 観賞魚の感染治療目的でも古くから愛用されて来ています。また, 臨床検査の現場では, 免疫染色に際してジアミノベンチジンが日常的に使用されている現実があります。ジアミノベンチジンは発がん性を有することで知られておりますし, 電気泳動像の染色ではエチジウムブロマイドが汎用されていますが, これらの色素の方が格段に危険度が高い[http://www.jarmam.gr.jp/situmon/et-br.html]と考えます。 髪の毛は事前に束ねるなりの配慮を指示すべきですし, 身体への付着については, 流水で徹底的に洗い流すことが迅速でかつ最も適切な対応策だと思います。グラム染色の色素の付着もマラカイトグリーンの色素の付着もまったく同様に洗い流すことが大切だと考えます。 私の考えでは, 実験衣 (白衣) 着用は当然で, 手袋の着用の励行を指示することで十分ではないかと考えております。また,「全員が一斉に加温染色を始めた場合, 湯気が室内に充満し, 気分不良の者が出てくる可能性はないでしょうか。もちろん換気は十分致す予定です」と記されていますが, 加温染色の炎は, 窓を開けて換気をすれば風の流れで消えてしまうことがあり, そのことの方が危険だと考えます。 要するに, 薬品としての危険性についての事前教育は必然で, とにかく身体への付着 (汚染) の完全回避を徹底することでしょう。 〔参考文献〕
(信州大学・ 川上 由行)
【質問者からのお礼】
|