■ 誤嚥患者の喀痰での薬剤感受性試験 | |
【質問】
中規模病院の細菌検査担当技師です。ひとつ質問させてください。 誤嚥を疑う喀痰のグラム染色で, 陽性球菌, 陽性桿菌および陰性球菌の貪食像が同時に見られました。培養 (嫌気培養も実施) では“normal flora”しか発育しませんでした。聞くところによると, 誤嚥により侵入した口腔内常在菌は異物と認識されて貪食されるそうですが, このようなケースでは薬剤感受性検査はどうすればよいのでしょうか??? 例えば常在菌 (今回の場合は起炎菌???) に対する感受性を行う (ただし判定基準が曖昧???) とか・・・どうしたものかと迷っております。ご多忙のところ申し訳ございませんが, よろしくご教唆お願いします。 【回答】
でも誤嚥に関連する回答をしていますが, 肉眼的にみて強度の膿性で, かつグラム染色で貪食像が認められても, 培養すると常在性菌叢のみしか分離されないという結果となり, どのように臨床に報告してよいのか判断に苦しみます。ただ誤嚥の初期の状態は, 口腔内容物の誤嚥により下気道中に落ち込んだ常在菌を多核白血球が手当たりしだいに貪食して排除しようとしている状態と考えられます。この時点では, 複数の常在菌のすべてがその炎症の原因と考えることも出来ますが, この先治癒に向かうのか否か, これらの中のどの菌が生き残って増殖を始めるのかは不明であり, 起炎菌が選択された状態ではないと考えられます。抗菌薬で治療すべき対象が定まらない状態であるため, 回答者の施設では薬剤感受性試験は実施していません。日本呼吸器学会の「成人市中肺炎診療ガイドライン」では, 誤嚥性肺炎の抗菌薬療法として「嫌気性菌に有効な抗菌薬を使用する。β-ラクタマーゼ阻害剤配合ペニシリン系薬, クリンダマイシン, カルバペネム系抗菌薬などが推奨される」と記載されています。 自己免疫や初期治療に抵抗して, 特定の菌が生き残り, 増殖を始めた際には, 種々雑多な菌の貪食像は消え, 同じ形態の菌が数多く認められるようになってきます。しかし実際には, その見える菌が原因菌か否かの判断は難しく, 線引きのし難いことも多々ありますが, あくまで他の常在菌叢とのバランスを観察して, より優勢に増殖していると考えられる菌を標的にして薬剤感受性検査を進めるべきではないかと考えます。誤嚥に引き続く感染の多くに, 微好気性菌や嫌気生菌が関与するとされますので, 一般的な呼吸器感染症の原因菌だけではなく, ミレリー(アンギノサス)グループの連鎖球菌や嫌気性菌の存在も念頭に置くべきではないかと思います。 (公立玉名中央病院・永田 邦昭) |