10/06/11, 17
■ 血液培養から“Granulicatella elegans
【質問】
 こんにちは。私は●●県の病院で微生物を担当しています■■と言います。いつも「質問箱」の方で勉強させていただいています。今回, 血液培養にて初めてのパターンで悩んでおります。

 4月17日に静脈血培養2セットを提出され, 培養2日目 (4月19日) に大きめのグラム陽性連鎖球菌を好気・嫌気ボトル2セットともに発育を認めました。羊血液寒天培地に培養しましたが, 2日経っても好気・嫌気ともに発育を認めませんでした。血液培養「陽性」と報告していたため, 4月19日に静脈血培養2セットが提出され, また2日後 (4月21日) にグラム陽性連鎖球菌を2セット好気・嫌気ボトルともに認めました。死菌ではないと確信したため, TGC培地・羊血液寒天培地・チョコレート寒天培地に培養したところ, チョコレート寒天培地に発育し, VITEK2 GPにて同定したところ,『Granulicatella elegans』と同定されました。インターネットなどで検索しましたが, あまり文献もなく, 確認試験をどうすればいいのか, 同定菌名を報告するべきか, そして薬剤感受性試験はどの培地ですればよいのか分かりません。先生方に回答をしていただければ幸いだと思います。回答の方よろしくお願いします。

【回答】
 “Granulicatella elegans”はヒトの口腔内に常在するレンサ球菌の一種で, いわゆるビリダンス・グループのレンサ球菌と同様に感染性心内膜炎から分離されやすい菌種です。しかし, 発育にL-システイン(L-cysteine)やビタミンB6(pyridoxal)を要求することから, 栄養要求性レンサ球菌(nutritionally variant streptococci : NVS) と呼ばれ, 現在は新属Granulicatella属に移籍されています。NVSにはGranulicatella属とAbiotrophia属などが含まれますが, いずれも通常の血液寒天培地には発育が困難であり, チョコレート寒天培地やブルセラHK寒天培地などの嫌気性菌用培地に発育するとされています。質問の分離菌の性状もNVSと一致しますので, 報告して問題ないと考えられますが, わが国でも本菌による心内膜炎の論文1)がありますので確認してみてください。市販されている血液寒天培地の中では羊血液寒天培地M58(栄研化学)に発育可能であるとされ, 回答者もM58を用いてNVSの一種であるGranulicatella adiacensを分離した経験があります。

 NVSの薬剤感受性試験については, 発育が遅いため測定が難しいとされていますが, 薬剤感受性試験法については, CLSI(Clinical and Laboratory Standards Institute) のDocument M45-Aに, Abiotrophia speciesおよびGranulicatella speciesの液体希釈法による実施方法が以下のように記載されています: 

培地: 溶血ウマ血液(LHB)添加(2.5%〜5%v/v) CAMHB (cation-adjusted Mueller-Hinton Broth) and 0.001% pyridoxal hydrochloride

接種法: 直接接種法McFarland 0.5, 培養: 35℃, 好気環境で20〜24時間培養

 薬剤感受性試験に関する海外の論文にも血液やビタミンB6(pyridoxal hydrochloride)を添加して測定した成績が掲載されています2),3),4)。また, 5〜10%の炭酸ガス添加によって発育が増強するとの報告もあります。

 この「質問箱」にも, 過去にNVSに関する回答がありますので参考にして下さい[ http://www.jarmam.gr.jp/situmon/streptc_adjac.html]。

〔参考文献〕
1) 野々宮百合子, 他 : 血液培養からGranulicatella elegansが分離された感染性心内膜炎の一例. 日本臨床微生物学雑誌16 : 89〜95, 2006.
2) Cooksey RC, Swenson JM : In vitro antimicrobial inhibition patterns of nutritionally variant streptococci. Antimicrob Agents Chemother. 16(4): 514〜518, 1979.
3) Gephart JF, Washington JA 2nd.: Antimicrobial susceptibilities of nutritionally variant streptococci. J Infect Dis. 146(4): 536〜539, 1982.
4) Ruoff KL : Nutritionally variant streptococci. Clin Microbiol Rev. 4: 184〜190, 1991.

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)


【質問者からのお礼】
 ご回答有難うございました。詳しい説明, 大変分りやすく参考になりました。臨床には同定菌名と文献などによる感受性試験の結果や第一選択薬などの資料を渡し, 抗生剤投与をしていただきました。文献にも感染性心内膜炎の原因菌との記載があり, 患者様にも心疾患があったため, 抗生剤は長期投与し, 回復され退院されました。チョコレート寒天培地のみの発育でしたので, チョコレート寒天培地にディスク法で薬剤感受性試験を行い, 参考値として後日報告しました。今回, 大変貴重な経験をすることが出来ました。この経験を今後の検査に生かしていきたいと思います。本当に有難うございました。


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