08/05/26, 5/30
■「チール・ネルゼン染色」にエコエタノール
【質問】
 いつも拝見し, 勉強させていただいております。抗酸菌染色である「チール・ネルゼン染色」について質問させていただきます。

 当施設の塩酸アルコールは, 消毒用エタノールに塩酸を混ぜています (厳密には違うことは承知です)。最近, 酒税のかからない「エコエタノール(ユーカリ油入り)」が発売されています。まだ検討はしていませんが, このエコエタノールを用いた時, 染色に問題は生じないでしょうか??? よろしくお願いします。

【回答】
 でんぷんなどの植物を天然発酵・蒸留生成した非石油化学系アルコールは酒税がかからないことなどから『エコエタノール』として発売され, 医療現場では消毒用に利用されています。アルコールの特性 (タンパク変性や色素の溶性など) についても立証されていますので, 染色時の脱色にも応用できるだろうと推察されます。しかし, 回答者は実際の経験がなく, 厳密な意味でのエビデンスを基にした『エコエタノールによる染色の良し悪し』の回答はできません。是非, 質問者の手によって検討され, 発表していただくように願っています。

 さて, 抗酸菌染色でのアルコール使用量ですが, Ziehl-Neelsen法による塩酸アルコール脱色では, 検体の種類や状態に応じて使用量が異なるように思われます。これに対し, 脱色と後染色を同時に行える“Ziehl-戸田法”なら, 一定量 (約 1 ml) の後染色 (しかも安価なメタノールで) のみで経済的と考えます。もちろん, “Ziehl-戸田法”での抗酸菌検出率を疑問視する方もいますが, 私の経験ではZiehl-Neelsen法と“Ziehl-戸田法”で, ほとんど差は見られませんでした。

 また, グラム染色についても, 自動染色装置を利用することにより, 染色液や脱色用アルコールを無駄なく利用でき, 経済的と考えます。

 日常の緊急検査で染色標本での鏡検が重んじられてきた現在(“検体検査管理加算”に伴う細菌顕微鏡検査)[http://www.jarmam.gr.jp/situmon3/kentai-kanrikasan.html], 操作が簡便で, 日頃細菌検査に携わっていない技師でも手軽に行える手技, 手法の見直しも大切だと思います。

◆Ziehl-戸田法: 東京医事新誌, 3064, 1937.
 (1) 塗抹・乾燥・固定
 (2) Ziehl液で加温染色・水洗
 (3) 戸田液で2〜5分間 水洗
 (4) 鏡検
 ○戸田の脱色・複染色液
 [メチレンブルー0.3 gram+メタノール90 ml+10%食塩水10 ml]

追記: 『エコ』について
 エコは環境への影響を重視した表現であり, “安価なもの”と混同している向きもあります。「酒税のかからないエコ・エタノール」の表現は止めては如何でしょうか。やがては発泡酒のように何らかの税金がかかるのではと感じています。
 

(大手前病院・山中 喜代治)


【質問者からのお礼】
 ご回答ありがとうございました。少しでも経費がかからないようにするために, 当施設でも薬品等を安く仕入れる傾向にあります。エコアルコールの製造方法やその効果の文献がなかなか見つからず, 実際使用してもいいものなのか困っていました。今後, 検討して染色性を確認したいと思います。


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