お子さんの心臓が持つ大切な役割

心臓は、全身に血液を送り出す大切な役割を持っています。

しかし、100人に1人の赤ちゃんは、心臓に何らかの異常を持って生まれてくることがあります。

このような状態を「先天性心疾患」と呼びます。中でも最も多いのが「心室中隔欠損症」という病気です。

これは、心臓の中にある壁に穴が開いてしまうことで、血液の流れに問題が生じる状態を指します。

↓先天性心疾患の中で心室中隔欠損症の占める割合は大体1/3とかんがえられています。

心臓の正常な働き

心臓は、右側(右心室)と左側(左心室)に分かれています。

体から戻ってきた血液を右心室で受け取り、肺へと送り、酸素を受け取ります。

そして、その酸素を含んだ血液を左心室で受け取り、体に送り出します。

通常、肺と体に流れる血液の量はバランスが取れており(1:1)、これが肺や体にとって最も良い状態です

正常な心臓の血液の流れを動画でみる↓

心室中隔欠損症とは?

心室中隔欠損症では、心臓の右心室と左心室を隔てる壁(心室中隔)に穴が開いています。

左心室の血圧は右心室よりも高いため、血液が穴を通って左心室から右心室へ流れ込みます。

その結果、肺には多くの血液が流れ込み、血圧が上がり「肺高血圧」という状態を引き起こすことがあります

また、心臓から体に送り出される血液が不足し、「心不全」と呼ばれる状態になることもあります。

心室中隔欠損症における血液の流れを動画でみる↓

心室中隔欠損症の影響と症状

心室中隔欠損症があると、赤ちゃんが十分にミルクを飲むことができず、体重がなかなか増えないことがあります。

また、心臓が大きくなり、心臓の筋肉に負担がかかるため、心臓がうまく機能しなくなることもあります。

さらに、肺高血圧が進行すると、手術が難しくなる可能性があるため、早期の対応が非常に重要です。

治療が必要な場合とそのタイミング

心室中隔欠損症を持つ全ての赤ちゃんが手術を必要とするわけではありません。

穴が小さい場合は、自然に閉じることが期待され、手術が不要なこともあります。

通常、医師はカテーテル検査を行い、肺へ流れる血液と体へ流れる血液の比率(肺体血流比)を測定します。

この値を基に、手術の必要性やタイミングを判断します。

穴が中くらいの大きさであれば、自然に閉じる可能性があるため、まずは経過を見守ることが一般的です。

通常穴が閉じる時期は2歳くらいまでで、それ以降も穴が残っている場合は、手術を検討する必要があります。

大きな穴がある場合は、肺高血圧が急速に進行するリスクがあるため、1歳未満での手術が推奨されます

心室中隔欠損症の手術について

手術が必要な場合、心室中隔欠損症の修復手術が行われます。

この手術では、胸の中央を縦に切開する「胸骨正中切開」と呼ばれる方法で行います。

手術中、心臓を一時的に停止させ、その間、人工心肺装置を使用して体内の血液循環を維持します。

人工心肺装置は体内の大静脈から戻ってきた血液を酸素化し、大動脈を通じて再び全身に送り出す装置です。

心臓を止めるにはどうする?

心臓を止めるために、遮断鉗子を使って大動脈の根本に血液が行かないようにし、心筋保護液を流します。

心筋保護液には大量のカリウムが含まれており、これが心筋に流れることで心臓が停止します。

このようにして心臓を一時的に止めた後、心臓の内部にある穴を確認します。

穴は右心房を切り、三尖弁を通して確認します。

自分の心膜(心臓を覆う膜)を使用して穴を閉じます。↓

実際の手術の画像です。↓

穴を閉じたら、心臓を再び動かし、人工心肺装置を取り外します。

最後に、胸骨と皮膚を丁寧に縫合して手術が完了します。

良い手術とは?

良い手術には、いくつかの重要なポイントがあります。

まず、手術時間をできるだけ短くすることが大切です。

人工心肺装置の使用時間が長くなると、全身の臓器に悪影響が及ぶリスクが高まります。

特に脳への影響が大きい場合、成長後の学習能力に悪影響が出る可能性があります。

また、心臓を停止させる時間が長くなると、心臓の機能が低下するリスクもあります。

ですから、経験豊富な外科医が迅速かつ正確に手術を行うことが重要です。

従来の方法では、胸骨を切開する際に皮膚の切開も大きくなりがちですが、最近では、皮膚の切開を最小限に抑える「皮膚小切開手術」が行われることがあります。

この手術は操作が難しく、特に大動脈へのカニューレ挿入時に失敗すると大出血を引き起こす可能性があるため、高度な技術を持つ外科医が慎重に行う必要があります。

当科の治療の特色

当科では、心室中隔欠損症の手術を最高のクオリティで行うことを目指し、次の点を特に重視しています

• 皮膚切開の長さを最小限に抑える:乳児の場合、切開の長さは3~4cm程度としています。
• 手術時間の短縮:手術時間をできるだけ短くし、約2時間で終わらせることを目指しています。
• 出血の最小化:手術中の出血を最小限に抑えるため、細心の注意を払っています。
• 皮膚縫合の美しさ:手術後の見た目にも配慮し、皮膚縫合を丁寧に行っています。

これらの取り組みにより、患者さんとご家族が安心して治療を受けられるよう、日々努力しています。

↓心室中隔欠損症に対する皮膚小切開手術の動画はこちら

当科における皮膚切開です↓

手術の時間経過のイメージです↓

ご不明な点やご質問があれば、どうぞお気軽にお問い合わせください。

お問い合わせ先

金沢医科大学小児心臓血管外科
メール:pedsurg@kanazawa-med.ac.jp
電話:080-2964-1839