金沢医科大学耳鼻咽喉科学教室は、1972年の本学開学とともに誕生し、2022年には50周年を迎えようとしています。その間、初代山下公一教授、2代目の友田幸一教授へと渡ったバトンを私が引き継ぎ、早12年が経ちました。2020年に世界中に拡散した新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、社会も医療界も大きく様変わりしました。耳鼻咽喉科は患者さんの鼻やのどと眼前に対峙する診療科でありますので、日々、緊張の中での診療を強いられています。完全な防御態勢での診療を行っても、数名の教室員が濃厚接触者となり休業を強いられました。しかし、その中でも感染者を一人も出すことなく診療、教育、研究を行ってこられたのは、病院、大学一体となる厳しい管理体制と、教室員一人ひとりの自覚と自制に基づくものであり、教室としての誇りでもあります。
本学の建学の精神は、「良医を育てる」、「知識と技術を極める」、「社会に貢献する」の3つでありますが、これはすなわち私どもの教室のポリシーでもあります。それを実践するために、常に「和」の精神を以って研鑽を積んでいます。大学の最大のメリットは、複数の医師で診療、研究、教育にあたれることであり、一人の知識は皆の知識になります。良医になるための第一ハードルである専門医試験については、100問の多肢選択問題と8題の筆記試験、小論文、面接による2日間の闘いですが、問題は年々高度化されており、国家試験対策のような単なる知識詰め込み型の勉強では突破困難です。日々の診療やカンファレンスで得た知識と経験なくして合格は望めません。もちろん、大学にいても一人机に向かっていたのでは合格は難しく、ここで「和」の心が必要となります。幸いこれまで一人の不合格者を出すことなく来られたのもそのなせる所以であります。また、専門医取得後も教室のメンバーは、一つのハードルであることを認識し、次のハードルを越えるべく研鑽を続けています。
研究に関しても同様で、大学院生は教室のメインテーマである嗅覚の研究を相互に連携して行い、ようやく海外雑誌に掲載されるようになり、さらに後輩たちも次に続けと頑張っています。更に嗅覚以外の分野でもスペシャリストが次々と加わり、診療、研究とも厚みを増してきました。
パンデミックによる社会や医療界の変化があっても、働き方改革による制度の変化があっても、われわれが病気に苦しむ患者さんに手を差し伸べる姿勢は変わるものではありません。様々な制約はありますが、これを機に、これまで当たり前のようにやってきたことが、真に正しいのであろうかという目を向けることができるようになりました。ピンチをチャンスとして、次の高みを目指して挑み続けます。