05/12/13
■ 連鎖球菌選択培地について
【質問】
 はじめまして。微生物の勉強をしている学生です。

(1) Mitis-Salivalius培地では, なぜ選択的に連鎖球菌が増殖するのか???
(2) このような口腔内連鎖球菌選択培地においては, どのような細菌がどのような性状のコロニーをつくるのか???

ふたつの質問に回答をいただけば幸いです。

【回答】
(1) Mitis-Salivarius培地では,なぜ選択的に連鎖球菌が増殖するのか???

 Mitis-Salivarius (MS) 寒天培地の添付文書には「共存する菌の中から選択的にStreptococcus mitis, S.salivarius およびenterococciを分離するための培地である」と記載されています。主に口腔内連鎖球菌の分離用に用いられています。

以下にMS寒天培地の組成を示します。

  Mitis-Salivarius agar (Difco) 


 Bacto Tryptose 10 g
 Proteose Peptone No.3, Difco 5 g
 Proteose Peptone Difco    5 g
 Bacto Dextrose 1 g
 Bacto Saccharose 50 g
 Dipotasium Phosphate 4 g
 Trypan Blue 0.075 g
 Bacto Crystal Violet 0.0008 g
 Bact Agar 15 g


本粉末培地を溶解後,オートクレーブ滅菌し,50〜55℃まで冷めてから亜テルル酸溶液を添加してシャーレに分注します。亜テルル酸によりグラム陰性桿菌の発育が抑制され,クリスタルバイオレット (ゲンチアナバイオレット) によりグラム陽性菌の中のブドウ球菌の発育が抑制されます。これらの選択物質により連鎖球菌が選択的に発育します。トリパンブルーは連鎖球菌以外の菌種(enterococciなど)との鑑別の目的で添加されているものと推測されます。

(2) Mitis-Salivarius培地には,どのような細菌がどのような集落を形成するのか???

 MS寒天培地には白糖が多く含まれ,嫌気培養を24時間37℃で行った後に,さらに24時間室温で空気中に放置すると,白糖から生成する菌体外多糖の有無や性質によって,菌種毎に特徴的な集落を形成します。「戸田新細菌学」に記載されている代表的な菌種の集落性状を紹介します。

Streptococcus salivarius
白糖から水溶性フルクタンが生成されるため,直径2〜5 mmのドーム状,ムコイド型の特徴ある集落を形成する。

Streptococcus sanguis
直径1 mm程度で,スムース (S) 型とラフ (R) 型の両方が認められる。共通して非常に硬く,かつ培地に固着している。白糖から生成される非水溶性グルカンの性質に由来するものである。

Streptococcus mitor および Streptococcus mitis
白糖からの多糖合成能は持たない場合と非水溶性グルカンを生成する場合とがある。前者はMS寒天培地上で軟らかい小型 (直径約0.5 mm) の集落を形成し,後者はS.sanguisに似た硬い集落を形成する。

・“Streptococcus milleri” group (S. anginosus, S. constellatus, S. intermedius
白糖からの多糖合成能はなく,MS寒天培地上では直径1 mm以下のSまたはR型の集落を形成する。

Streptococcus mutans group 
S. mutansは白糖から非水溶性・粘着性の菌体外グルカンを産生する。MS寒天培地上での典型的な集落は直径約1 mmで盛り上がり,ラフ型を呈する。S. sobrinusの典型的な集落は直径約1 mmでムコイド型である。

 ここに示した集落の性状はあくまで代表的なものです。同一菌種であっても菌株毎に少しずつ違いはあり,また初代分離菌株と保存菌株とでは異なって見えることもあります。上記の集落性状を参考にしながら観察してみてください。また, この「質問箱」の過去の回答の中にもMS寒天上の集落性状が掲載されていますので, 参照ください。

・[http://www.jarmam.gr.jp/situmon/koukunai_saikin.html
・[http://www.jarmam.gr.jp/situmon/streptc.html]

(公立玉名中央病院・永田 邦昭)

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