我々の研究室では、「行動から組織・細胞レベルの薬理学的研究を通して、知覚や精神機能を支える分子基盤を明らかにする」ことを目標に研究を行っています。これまでに益岡は特に、Gタンパク質共役型受容体(ムスカリン受容体、グルタミン酸受容体、ヒスタミン受容体)が、神経の興奮性にどのような影響を与え、感覚や精神機能に影響を与えるかについて、行動学的手法、急性スライス標本や初代培養細胞系を用いて解明を行ってきました[1-3]。この情報をもとに、様々な神経疾患においてこれら受容体による制御機構がどのように変調しているかを明らかにして、難治性神経疾患の新たな治療薬開発に繋げることを目指しています。
1.感覚異常・疼痛に関する研究
さまざまな疾患の症状として、感覚異常や疼痛が引き起こされます。疼痛は、近年では痛みを受容する神経(侵害受容性神経)における痛み情報の受容の変調のみならず、脊髄や脳幹における侵害受容性神経からの痛覚情報の伝達、脳内での痛みの情報処理など、様々な部位での痛覚情報の制御異常が複雑に絡み合っていると考えられています。このような病態を引き起こす原因もしくは機序として受容体・イオンチャネルといった神経機能を支える分子の機能の変容に注目し、疾患モデル動物を用いて行動薬理学的手法、電気生理学的手法など様々な実験手法を駆使して迫っていきます。
我々の研究室の特徴は、「眼科領域の知覚」について特に力を入れて研究を行っており[4,5]、眼表面疾患の研究を行う国内外の研究室とネットワークを持っている点が挙げられます。角結膜疾患モデル動物を用いて、眼表面の乾燥感、不快感や痛みがどのように生じているか、そのメカニズムに迫ることで新たな治療開発に資する研究を行っています。また、慢性的な疼痛や感覚異常を引き起こす疾患では、うつや不安など神経精神疾患への罹患率が高く、眼表面疾患においても同様の報告がされています。これまで神経精神疾患の研究を行ってきたバックグラウンドを生かし、眼表面疾患からくる精神機能異常についても研究を展開しています。
2.コリン作動性神経による神経精神機能の制御に関する研究
当研究室では、中枢神経系においてムスカリンアセチルコリン受容体M1には細胞内小器官に存在する機能的受容体が存在することを発見し、そのフェノタイプについて解析を行ってきました。この発見を契機にコリン作動性神経による神経伝達に今まで知られていなかった新たな機構が存在することを見出し、その詳細な分子機構について神経化学的解析法や脳スライス標本を用いた電気生理実験さらに分子生物学的実験により明らかにしてきました[6-8]。この新たな分子機構の全貌を明らかにすることにより、アルツハイマー病やパーキンソン病といった神経変性疾患の病態解明やその治療薬開発に繋げることを目指しています。
引用
[1] Masuoka et al.Br J Pharmacol 172(4):1020-1033, 2015 [2] Masuoka et al.Neuropharmacology 151:64-73, 2019 [3] Masuoka et al.Br J Pharmacol 177(18):4223-4241, 2020 [4] Masuoka et al. J Ocul Pharmacol Ther 34(1-2):195-203, 2018 [5] Masuoka et al. Front Cell Neurosci 14:598678, 2020 [6] Anisuzzaman et al.J Neurochem 126(3):360-371, 2013 [7] Uwada et al. J Cell Sci 127(14):3131-3140, 2014 [8] Masuoka et al. Neuroscience 404:39-47, 2019